身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
「もう、リゼットも察していることとは思うが……この『アルヴィラ』で君に会った時から、ずっと君のことを想っていた。どんな苦境でも明るく、前向きに振舞う君に惹かれた」

「ユーリ様……」

「地位や身分にとらわれて卑屈になっていた俺に、リゼットは幸せをくれたんだ。君のいない人生はもう考えられないし、俺もリゼットを幸せにしたい。リカルドの身代わりなんかじゃない俺自身の、ユーリ・シャゼルの妻になってくれませんか」

 私の左手は、そのままユーリ様の口元へ。指先にユーリ様の唇が触れる。

 潤んだ瞳で見つめられ、ユーリ様に触れられている左手から体全体に熱が伝わっていくのが分かった。もしかしたら私への気持ちをお話してくれるのかとは思っていたけど、まさか結婚の話までとは想像していなかった。

 頭の中に、昨日のネリーの言葉が響く。


『気持ちがハッキリ決まっていないのなら、ぐちゃぐちゃのままユーリ様にぶつければいいのです』


 私の今の気持ちを、そのままユーリ様に伝えてもいいのかしら。彼なら、受け入れてくれるかしら。



「ユーリ様、私の話を聞いてくださいますか?」

「……リゼット。君の気持ちを素直に話してくれればそれでいい」

「……私は昔からお父様から嫌われていて、お母様もあの状態でしたし、途中からソフィも現れて。だから私、すごく家族が欲しかったんです。お互いに助け合って思い合える家族が欲しかったんです」


 今の私のぐちゃぐちゃのままの気持ちを、思いついたままに言葉にしてみる。もしかしてユーリ様は、明るく前向きな私を気に入ってくれたのかもしれないけど、本当の私の心はそんなに強くない。

 私の気持ちや誠意を踏みにじったんだと謝ってくれるような真面目な人だから、私もちゃんと自分の気持ちを伝えないといけない。


「だからリカルド様に嫁ぐことが決まった時も、もしかして家族になれるかもしれない、家族になれたら嬉しいと思って行きました」

「うん」

「……ユーリ様のお気持ちはとても嬉しいです。私もユーリ様の優しさや暖かさ、真面目で不器用なところもとても好きです。騎士としても辺境伯の代理としても、任務に誠実に取り組まれるところも尊敬しています。でも……私は大切な家族であるお母様を、シビルやソフィから守れなかった負い目があるのです。お母様という大切な家族を守れなかったんです」


 シビルやソフィがヴァレリー伯爵家にやって来た時に、逃げずに戦っていればよかったんじゃないか。
 苦しくても前向きに生きよう……なんて綺麗ごとを並べて生きて来たけど、苦しい状況になる前にお母様や自分を必死で守ればよかったんじゃないか。

 そうすれば、もしかしてお母様の数年間を奪われることはなかったんじゃないか。

 だから、こんな私がユーリ様とちゃんと家族になることができるのか不安なのだ。
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