身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
 自分でも気付かない間に、私は自分を責めて苦しんでいたのかもしれない。ユーリ様の言葉を聞いて体の力が抜けた瞬間、私の目からは涙が溢れた。

 ソフィが国王陛下の前で断罪された時の涙とは少し違う。
 お母様に対して申し訳ないという気持ちでがんじがらめになっていた自分が解放され、体も心も緩んで溢れ出た涙だった。


 あの時こうしておけば良かったという後悔は、決してゼロにはならないと思う。でも、ユーリ様の言葉で、少し気持ちが救われたような気がした。


「…………いいですか」

「え?」

「私がユーリ様の妻に、家族になってもいいですか」


 泣いているのか笑っているのか、自分でどんな顔をしているのか分からない。でも、こんなぐちゃぐちゃな顔もぐちゃぐちゃな気持ちも、ユーリ様にはそのままぶつけても大丈夫なんだ。


「……リゼット、俺は生涯をかけて君を愛するつもりだ」

「今のところ、は?」

「……うっ……『今のところ』でもなく、『当面』でもなく、君への気持ちは死んでも変わらない」


 私の左手を包むユーリ様の手に力が入る。


「…………それで、結局俺のプロポーズは受けてくれるということでいいかな?」

「はい、よろしくお願いします!」


 私は満面の笑みでプロポーズを承諾したつもりだったのに、ユーリ様はなぜか悲愴な面持ちでテーブルに思い切りゴンッと額をぶつけた。


「えっ……ユーリ様、大丈夫ですか?! すごい音がしましたけど……」

「……テーブルが、邪魔だった。これがなければ、君に今すぐキスをしたかったのに……」

「ユーリ様……そんなことしたら鼻血が出るかもしれませんよ?」

「…………」

「分かりました。じゃあ、お食事が終わったら……あとでゆっくりお願いします」

「えっ……!」



 泣いたり笑ったり忙しい私たちの会話がひと段落するまで待ってくれていたのか、おばあちゃんがこっそりと立ち上がって、鍋をもう一度火にかけるのが見えた。

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