身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?


 お父様がお母様のことを『浮気者』だと誤解しているのは、私の髪の色のせいだ。お父様もお母様も混じり気のない銀髪なのに、生まれた私の髪が菫色(すみれいろ)だったから。
 私を実の娘だと信じられなかったお父様はお母様に辛くあたった。数年前に体調を崩してからは意識不明の寝たきりになってしまい、今ではまるで眠っているようにベッドに横たわっている。

 お父様は以前から使用人のシビルという女性を愛妾としていたらしく、そのシビルが生んだ子が、銀髪の妹ソフィだ。

 さすがに本妻のいるヴァレリー家で妹を産んで育てることは難しかったのだろう。シビルは故郷に戻って出産。そしてお母様が寝たきりになったのを知って彼女たちは王都に戻り、再びこの家で暮らしている。

 シビルはまるでヴァレリー家の女主人のように振る舞い、ソフィはお父様の養子となった。

 私は自室を追い出され、今は使用人部屋の一室で生活している。


 この家は妹を中心に回っているのだ。
 妹を溺愛しているお父様に反抗したところで、結果は何も変わらない。

 今回の縁談だって、きっと妹は深く考えずに「何となく嫌だ」程度の理由で断っているのだろうなと思う。少しわがままを言えばお父様はすぐに聞いてくれるので、妹はそれをいいことに自由奔放に生きているから。

 ロンベルク辺境伯との縁談だなんて、伯爵家の我が家からすれば身に余る話なのに。
 お相手が無類の女好きというのを、ソフィは聞き流せなかったのだろうと思う。

 私は元々誰とも結婚する予定もなかったし、この場所を離れられるならむしろ、今よりも悪くなることは無い気がする。お母様のことを除いては。

 自分の使用人部屋に戻った私は扉を閉め、側に置いてある椅子を扉の前に移動させた。
 
 元々私の部屋だった場所は、今は妹の部屋になっている。
 まだ元気だった頃のお母様との思い出が詰まったものはほとんど、部屋を出る時に処分されてしまった。どうせ目を覚まさないのだから不要だろうと言う、お父様からの指示だった。

 私が初めてこの部屋に来たとき、予め部屋の鍵も窓の鍵も壊してあって、隙間風も入って来るようなお部屋だった。鍵を直してもすぐにまた壊されるので、誰かが夜中に入って来ないように、毎日扉の前に棚や椅子を移動させておくのが日課になった。

 ソフィもここに来る前に同じような怖い思いをしたのだろうか、と知らない過去に思いを馳せた。

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