身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
 このロンベルクに来てから、一度だって旦那様とお食事を共にしたことがないのだ。それをウォルターの一言で急に旦那様と二人……どうしよう、緊張する。

 森での土や埃を入浴して落とし、いつもよりも上等なドレスに着替えた。薄いブルーのドレスは、いつも着ている服とは比べ物にならないほど高価なものに見える。


「ねえ、ネリー。このドレスは一体……」
「これは、シャゼル家が用意したものです」
「こんなものを頂いていたの? 全然知らなかった。お礼もお伝えしてないわ、困ったわね」


 ドレスはちょうど今朝届いたという。ネリー曰く、きっと結婚式のあとに注文なさったのだろうとのことだ。日程的にはそうだろうが、あの初夜の晩を経て、そのあとに私のドレスを発注するなんてことはあるだろうか。

 ますます旦那様のことが分からない。

 夕食の場所までは何度も足を運んだこともあり、迷わずにたどり着ける。慣れないドレスで転んだりしないように、ゆっくりと部屋に入った。

 旦那様は、まだ来ていない。
 本当に来てくれるのだろうか。今まで一度も食事を共にしたことがないのに。


「ウォルター、旦那様はまだなのね」
「そうですね……呼びにいってまいります」
「いえ、いいのよ! しばらく待ってみて、いらっしゃらないようだったら本当に大丈夫だから。お食事をお部屋に運んで差し上げてください」


 サラダのプレートの横には、花瓶に生けられたアルヴィラ。
 さすがにウォルターも、花を食べるつもりだったなんて思わなかったようだ。白い花なのに、角度によっては金にも銀にも見える。どちらかと言うと銀だろうか。

 アルヴィラを見ているうちに、息を切らせた旦那様が部屋に入ってきた。

「……すまないっ……遅れてしまった」

 背中で息をする旦那様。お仕事が忙しい中、もしかして走って来てくれた? 約束の時間からは四半刻ほど過ぎていた。

「旦那様、お仕事は大丈夫でしたか? お忙しいのに申し訳ありませんでした」
「いや……こちらこそ遅れてすまない。その……ドレスが、えっとドレスも? 美しいですね……座ってください」
「はい……あ、旦那様。ドレスをプレゼントして頂いたようで、本当にありがとうございます」

 また私から目線をそらして無言の旦那様。ウォルターがこちらを見てウィンクをした。ウォルターありがとう、できるだけ楽しい時間を過ごせるように頑張ります。

 それから私たちは、初めてとなる夫婦二人の夕食を頂いた。


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