身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
 旦那様オススメだという食堂は貴族がいくような高級な雰囲気ではなく、食堂『アルヴィラ』を思い起こさせるような小さなお店だった。赤と白のストライプのアーケードがとても可愛らしい。

 店に入り、興奮しながらメニューを眺め、出てきたランチに舌鼓を打つ私。ああ、これ以上ない幸せだわ。


「リゼットは本当に幸せそうに食べるな。別に高いものじゃなく、一般庶民向けの大衆料理だぞ」

 私の目の前には、私を見て笑顔になる旦那様。分かります、美味しそうに食べる人を見るのって楽しいですよね。

「旦那様。私は貴族のパーティで頂くお食事よりも、こういうお料理の方が好きなんです。伯爵令嬢らしくなくて申し訳ございません!」

 私は椅子に座ったまま、仰々しくお辞儀をする。もちろん、ちょっとした皮肉をこめて。

「そうだな。俺も子供の頃は貧しかったから、こういう食事の方が気を遣わずに済んで好きだ」
「あら、旦那様はシャゼル家のご令息なのに……」

 旦那様はハッとした顔をする。
 由緒ある貴族の家系であるシャゼル家の一員であるのに、旦那様が言うような貧しい生活などするはずがない。

「実は……父がものすごくケチで。全くお金を使わなかったというか……節約してたのだったか……な?」

「まあ、そうなんですね! 私も節約は大好きなんです!」

「節約が……好き……?」

「はい。私の母が病気になってからは、使用人として働きながら生活していたんです。母の診察代を父がきちんと出してくれるのか不安で……結構節約してお金をためていたんですよ。でも、もし伯爵令嬢として何不自由なく暮らしていたら、こんなに美味しい食事を頂くこともできなかったはずです。色々辛いこともあったけど、こうしてパクッとお食事を口に入れた瞬間、ああ幸せだなって思いますよね!」

 旦那様がポカーンとしている。
 ……しまった。旦那様が貧しい生活をしていたなんて言うから、ついつい自分の貧乏生活のお仲間のように接してしまった。シャゼル家が節約しながら送る生活と、ヴァレリー家を追い出された使用人が送る生活が、釣り合うわけがなかった。

 失礼なことを言ったかもしれないと慌てていると、旦那様がまた笑う。

「リゼットを見てると、悩んでた自分がどうでも良くなるな」
「そうですか?」
「気持ちが軽くなるというか楽になると言うか」
「もしかして旦那様も……お金に困ってるんですか? 節約術教えましょうか?」

 お腹を抱えて笑う旦那様。
 これは、別に怒っていないってことかしら? 私は笑いが止まらない旦那様を横目に、こっそり旦那様の分まで食事を平らげた。

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