身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
 リカルド・シャゼルという人は、ユーリ・シャゼル様の恩人だった。

 ユーリ様は妾腹で、お母様と共に平民として暮らしていたが、そのお母様が亡くなってからシャゼル家に引き取られた。上にはお兄様が二人。突然弟だと言っても受け入れることが難しかったのか、お兄様二人はユーリ様と距離を置いた。
 ユーリ様のお父様も、お兄様二人とユーリ様の扱いを変え、ユーリ様だけは騎士学校には入れてもらえなかったそうだ。

 ユーリ様は諦めていた。

 従兄であるリカルド様はユーリ様と年が近く、唯一心を許して接することができる相手だった。リカルド様のお父様からユーリ様のお父様に話が行き、騎士学校への入学を勧めてくれたことがきっかけで、念願の騎士学校に入れたそうだ。

 リカルド様とは同期として騎士学校で共に学んだ。元々争いごとが嫌いだったリカルド様のフォローはいつもユーリ様とカレン様。リカルド様はいつも、「俺は騎士に向いていない。元々興味のあった医学や科学分野の研究をするために文官になりたかった」と漏らしていたそうだ。

 授業をサボるリカルド様の尻拭いに奔走する日々は、元々騎士学校入学を推してくれたリカルド様のおかげだったから苦にならなかった。

 そんなリカルド様が、突然失踪した。

 あの、私との結婚式の当日だったという。

 魔獣との戦いで、第二王子を身を挺して守った……というのは美談で、リカルド様本人曰く「たまたま第二王子の前に立っていた時に魔獣の攻撃を受けた」だけだそうだ。捏造された美談のせいで辺境伯という重い地位につかなければならないことを、リカルド様はとても嫌がっていた。

 ユーリ様に「辺境伯はお前がやるべきだ」と何度も押し付けようとした。ユーリ様が諭すと、今度は女遊びに明け暮れ、素行が悪くなった。

 リカルド様は騎士学校時代もいつもこんな調子でのらりくらりとユーリ様に色々と押し付けていたから、まさか失踪するほど追い詰められてるとはユーリ様も思わなかった。

 この結婚は国王陛下からの命。
 私とリカルド様との結婚がうまくいかないと、シャゼル家は取り潰しだとまで脅されていたらしい。リカルド様の変化に気付けなかった負い目も手伝って、ユーリ様は後先考えずにリカルド様の身代わりを引き受けた。

 嫁いでくる相手のヴァレリー伯爵家の方から離婚してほしいと言われれば、シャゼル家に責任を問われることなく妻を追い出せる。そうやって時間を稼いで、その間にリカルド様を探し、戻ってくるように説得しようと思っていた。

 だから、あんなことを言った。
 ソフィから嫌われる役を演じ、ソフィがロンベルクでの生活が嫌になって逃げ出せばいいと思った。

 でもやって来たのはソフィではなく、私だった。


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