身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
 それにしてもおかしい。あれだけソフィとお父様は仲が良かったのに、ロンベルクへの到着すら知らせてくれるなとは……お父様との間に何かがあったのだろうか。ソフィの髪の毛の色が変わったことと関係があるの?

 元々お父様が私を嫌っていたのだって、私の髪が菫色だったからだ。確かソフィの母親のシビルは赤毛だったから……もしもこの黒髪が彼女の本当の髪の色なら、もしかしてソフィはお父様の子ではない可能性も……?

 ソフィの髪を整えながら色々と考えあぐねていると、ソフィがピシャリとブラシを持った私の手をはたく。


「お姉様。何を考えているの。身なりを整えたらリカルド様に会わせてちょうだい。私、直接リカルド様に謝るから。本当は花嫁は私になるはずだったのにってちゃんと説明するわ」

「ソフィ、貴族同士の結婚というのはそう簡単にはいかないのよ。それに今は魔獣が……」

「うるさいわね!」


 私の手からブラシを奪い取ったソフィが、私にそれを投げつける。


「お姉様は王都に戻っていいわよ。あとは私がちゃんとやるから。いいえ、むしろ早く戻らないとまずいんじゃないかしら。あなたのお母様、目を覚ましたわよ」

「えっ……お母様が?!」

 お母様の話を聞いて驚き、床から拾い上げたブラシを再び落としてしまった。フラフラとよろけてしまった私を、ネリーが後ろから支える。


「ソフィ、それはどういうことなの? お母様は無事なの?」

「だから、早く王都に戻りなさいよ! 私はここで暮らすから!」

「ねえ、教えて! お母様は……」

「言った通りよ。早く戻りなさいよ! 二度と来ないで!」


 私とソフィが言い合いになっているのを止めるように、ネリーが私の耳元で囁いた。

「奥様、魔獣のことも落ち着きましたし、あとは騎士団が全員戻るのを待つのみ。無事も確認できておりますし、ここは大丈夫です。奥様はとりあえず王都に向かう準備を致しましょう。ソフィ様のことはお任せください」

「ネリー……分かった、準備をするわ」

 苛立つソフィのお世話をネリーに頼み、私は自分の部屋を出た。

 今、私が王都に戻ったら……もうここには戻らないだろう。今はあんな状態だけど、ソフィを置いていくわけにはいかない。
 リカルド様もいないし、ユーリ様だって迷惑だろう。
 ウォルターに相談してみようか。

 最後にきちんとユーリ様にお別れを伝えてからと思っていたのに。このまま去ったら、もうユーリ様にはお会いできないかもしれない。

 私は、隠しておいたグレースからの手紙を取り出し、誰もいない廊下で封を開いた。
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