身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
 数日前にロンベルクの森の中でカレンと言い合いになった。

 カレンがリカルドを選んだ時にあんなに簡単に諦められたのは何故だったのか、遠回りしてやっと分かったんだ。


 リゼットから祝ってもらった誕生日。体中が幸せで満たされて、自分が特別な存在になれた気がした。リゼットを守りたいという気持ちだけじゃなく、自分の存在自体も大切にしようと思えた。悩んでいた気持ちも、リゼットのことを考えると軽くなる。

 だから俺も、リゼットの幸せを心から願った。

 リゼットがリカルドの妻になることが、彼女の幸せなんだと思っていた。辺境伯夫人であれば、これまでのような貧しく苦しい暮らしをすることもない。由緒ある伯爵家の令嬢にふさわしい地位でいられる。
 だけどこうして自分がケガをして、もしかして死ぬかもしれないという場面になって改めて考えた。今このまま死んで、俺は後悔しないのか? と。

 子どもの頃に母が亡くなって、シャゼル家に引き取られた。平民から急に貴族になり、俺は幸せだったか? 身分や安定した生活は俺を幸せにしてくれたのか?

 リゼットだってそうだ。伯爵家から虐げられて使用人と同様の苦しい生活の中、食堂アルヴィラで働く彼女は明るく朗らかで幸せそうだった。俺とロンベルクの街に出て食事をした時も、屋敷で食事を共にするときの何倍も楽しそうだった。

 彼女の幸せは、地位や身分じゃないんだ。

 俺は自分に自信がないあまりに、リゼットと共に生きたいなどと言えるはずがないと思っていた。カレンがリカルドを選んだ時と同じように、リゼットに俺を選んでもらえる自信がなかったんだ。

 でも、今は違う。

 カレンと言い合いになった時、怒りに任せて本心が口から飛び出てきた。リゼットをリカルドに渡したくないと。

 彼女を、俺が、幸せにしたい。そして、俺もその姿を見て幸せを感じたい。二人で互いに幸せを与えあいながら、どこまででも高みに登っていけるような感覚。

 リゼットに早く会いたい。リゼットを誰にも渡したくない。

 彼女と共に生きる道を探したい。二人で共に幸せになりたい。彼女に気持ちを伝えることすらできないまま、彼女の幸せを遠くから願うだけなんて、本当は耐えられない。

 気付くのが遅かったのは分かっている。だから今はケガのことなんてどうでもよくて、一秒でも早く彼女に会いたいんだ。


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