失われた断片・グラスとリチャード
「ありがとうございます」

その瞳は、ガラス玉ではなく、
生気が宿り、少し安堵(あんど)の色が浮かんでいた。

グラスが、山盛りの皿を手に、
台所に引っ込んだ。

リチャードは、ナイフとフォークを手に取った。

焼きたてのパンの、香ばしい香りは、どんな高級なレストランの
食事よりも、上等だ。

グラスは、今まで使った使用人の中でも、ダントツにいい。
黙って仕事をするし、
しかも、こちらの期待以上に、
気が利く。

あの、死霊のような陰気くささは、仕事仲間としては、
疎(うと)まれるかもしれないが。
適切な距離感が、鍵なのだろう・・・

<死にぞこなった>・・
あの老婆の言葉が、脳裏をかすめた。
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