失われた断片・グラスとリチャード
美しい貴族の令嬢は、
ましてや、素性が明らかでない場合は、恰好のうわさのネタだ。

リチャードの高級娼館経営は、
好奇の目で見られるし、
説明する時間も、わずらわしい。

「お前の名前を・・
決めておかねば」
リチャードはため息をついた。

「グラス・・Gか・・
グレイス・・グリーン」

「グレイス・グリーン、
外国で生活をしていて、
兄の仕事の都合でここに来た・・
どうだ」

グレイス・・優雅な、優美さ

荒野の雑草が、
優雅な深窓の令嬢になってしまった。

「おもしろいものだ」

リチャードは、不機嫌な仮面が外れて、口角が上がった。

グラス、いや、グレイスは
不思議そうに、リチャードを見つめていた。

ガーデンホテルに着くと、
リチャードは杖をついて、先に降りた。

それから、グラスに向けて、手を差し伸べた。
グラスはそれを見て、戸惑っている。

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