ひと夏のキセキ
私の分まで、幸せに。


それが1番の願い。


「…忘れようと思った」


BGMにかき消されそうなほど小さな声。


「でも、無理だった。俺はお前じゃないとだめだ」


……そんなことない。


そんなこと、あっちゃいけない。


「なぁ。治んねぇの?もう絶対?」


「…そうだよ」


「なんで?」


「なんでって―…」


困って神田先生を見上げると、先生は目を伏せて答えてくれた。


「原因不明の未知の病だからだ。原因が分からなければ治療もできない。経過を見つつ、その場しのぎの治療を施すくらいしか、僕たち医者にできることはない」


冷たい言い方に聞こえるかもしれないけど、これが現実だ。


医療は魔法じゃない。


なんでも自由に治せるわけじゃないんだ。


むしろ、ここまで生きてこれただけでもありがたいことなんだ。
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