ひと夏のキセキ
「嫌だったら帰ってね。そういうの慣れっこだから」


もうすぐ死ぬかもしれない人に優しくしてくれる人なんていない。


昔からの知り合いならまだしも、まだ出会って1週間。


嫌がられたってしかたないよね。


私は皆と違って走り回ったり全力で遊んだりができなかった。


だから、幼稚園の頃から友だちは皆私から離れていった。


“絢ちゃんと遊んでても楽しくない”


そう言って皆いなくなっちゃうんだ。


「バカじゃねぇの」


鋭い言葉が降ってくる。


チラッと遥輝を見上げると、真っ直ぐな眼差しで私を見つめてくれていた。


「嫌なわけないだろ。お前がどんな病気だろうとお前はお前。治る治らないなんて関係ねぇんだよ」


「遥輝……」


初めてだ。


初めてそんな人に出会った。


病気なんて関係ないって言ってくれる人…。


そんな優しい人、本当にいるんだね…。


だめだ。


遥輝という人を知れば知るほど近づきたくなる。


近づいちゃいけないのに。
 

仲良くなればその分別れがツラくなるのに。


頭では分かってるんだけどな…。


「俺はもっと絢と仲良くなりたいと思ってるよ。絢は?」


…ずるい。


そんなふうに目を見て言われたら、頷く以外の選択肢がないじゃん…。


「…私もだよ」


私も許されるのであれば、遥輝と仲良くなりたい。


死ぬ前に、少しくらい幸せを感じてもいいよね…?


遥輝と一緒に、幸せというものを味わいたいんだ。


自分も遥輝も傷つける結果になることは分かっているけど、遥輝へ向いた恋心には抗えないんだ。
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