月夜に微笑む君の面影
夜明けと夕暮れ
地平線の彼方に、今日も太陽がゆっくりと沈んでいく。
窓から差し込む夕日に赤く染められた長い廊下を、まだ少しぼんやりとする頭でのんびり歩いた。
夕日は美しいと思うが少し苦手だ。
その赤一色で世界を包んでしまうから…
一面赤い色の世界にいると、遠い昔の事を嫌でも思い出してしまう。
けして幸福な思い出ではない。
赤い色は血の色。
血で赤く染められた世界にいるようで、なぜか不安になった。

そんな事を考えながら歩いていると、前方に人影を見つけた。
窓辺に腰掛け、どこかうっとりと夕日を見つめているようだ。
真っ赤な世界に、深紅のドレスと赤い口紅。
ふと、廊下に伸びたその影もこちらに気付いたように揺れる。
一瞬瞳の中に、燃えるような激しい感情が見えた気がした。
だがすぐにそれは穏やかな笑みに変わる。
「あら、おはよう」
凛としていて、けれどどこか揶揄うような声音で、女はこちらに美しい微笑みを向けた。
「今日は珍しく早いわね?いつもは暗くなる直前に起き出してくるのに」
「何だか胸騒ぎがしてね。目が覚めてしまった」
深紅のドレスを着た女の横に並んで、窓の外の夕日を眺める。
「美しいわ」
女の赤い唇から、感嘆のため息がこぼれた。
それにそうだねと、相槌をうつ。
「赤い色は好きよ。だから夕暮れ時は思わず景色に見いってしまうわ。この時が一番好き。永遠に世界が赤一色なら素晴らしいのに」
うっとりと囁いた女の瞳に、狂気の色が浮かぶ。
それに気付かない振りをして、曖昧に頷きだけを返した。
「今日の昼間、太陽を拝めたわ。だからあなたも今夜は月が拝めるはずよ」
「そうか」
「ずいぶんと長いこと、こんなふうに太陽と共に過ごす日々が戻ってくるのを待っていたわ」
貴方もそうでしょ?と尋ねられ、確かにと同意する。
ただ、こちらは太陽ではなく月だが
「例の件は君に任せるよ。もともとそういう約束だしね」
「当たり前だわ。邪魔などさせない。私は誰よりも強くこの時を待ち望んでいたのよ。こちらの事に一切口出ししないでちょうだい」
「それは忠告?」
「いいえ、警告よ」
鋭い眼差しで、きっぱりとそう女は呟く。



< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop