空の足あと
「ねえ。空に足あとなんてつくのかな」

僕の手をするっとよけたヒンメルがつぶやいた。風がその声をさらい、僕へ向かって投げつける。いつものいたずらだ。

「どうかな。つかないんじゃないか」
「ふうん」

ヒンメルが太陽(ソル)に向かって両手を伸ばした。捕まえられるはずなんてないのに彼女はよくそんなことをする。その白い手の向こうに空の青が透けて見える。

「そうなんだ。つまらないの」

彼女の後ろにそうっと回り、華奢な背中を抱きしめる。しかしまた逃げられてしまう。

「ねえヴォルケ。足もとを見て」
「えっ」

言われるまま見下ろす。
僕と彼女の遥か下には緑の森が広がり、森の向こうはひまわりの咲く大草原。さらにそのずうっと向こうには人間たちが住んでいる街があるはずだ。

彼女が何を言おうとしたのかすぐにわかった。僕の足もとには小さな雲があった。凹んでいるのは、ヒンメルにいたずらしようとして、うっかり僕が踏んづけてしまったせいだろう。

「ほら。やっぱり足あとはつくよ」
「そうかな。でもこれは足あとじゃないよ」
「足あとだってば」
「違うって」
「もう。ヴォルケのいじわる!」

吹いてきた風をヒンメルが捕まえた。その風に乗り、僕から逃げていく。やがて雲の中へ消えてしまった。戻ってきた風が彼女の可愛らしい声を届けてくれた。

「嘘つき」
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