激情を抑えない俺様御曹司に、最愛を注がれ身ごもりました


「悪に屈してはならない。誰にも、君のサロンを邪魔する権利はないんだ」


 頭上から降ってきた声に、ポロリと我慢し切れなかった涙が一粒頬を伝う。

 大丈夫だと踏ん張ってきたけれど、本当は不安で怖かったのだと今になってやっと気付かされる。

 呼吸が乱れて嗚咽が漏れないように、奥歯を噛んで必死に堪える。それでも小刻みに肩が震え、涙は次々と溢れ出した。


「ありがとう、ございます。よろしく、お願いします」


 普通を装って出した声も、涙に濡れているのがわかる。

 香椎さんは「わかった」と言い、腕を緩めて私を覗き込んだ。


「我慢しなくていい」


 濡れた目元を親指で優しく拭い、再び腕の中に閉じ込める。

 しばらくそのまま抱きしめてくれていた。

< 116 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop