仮想世界「アルファ」〜何でも屋〜

ヒッピー・ヨコヅナ

「あん!はっはっはっ」

1匹の可愛いミニチュアダックスフントの子犬が芝生の広場を駆ける。それはもう愛らしく、見ているものの視線を釘付けにすることだろう。

「い!っダダダダダダダダダダダダ」

 1人の青年が芝生の広場を引きずられる。それはもう痛々しく、見ているものを同情と哀れみの目に変化させている。

 「「うわぁ……」」

だが、青年も諦めてはいない。

 「止まれー!」

と、体勢を立て直し、右手に持っている子犬のリードに力を込める。

「ズザザザザザザザぁぁ」という音があたりにこだまする。

「いっダダダダダダ!」

 奮闘虚しく踏ん張った状態で30センチ引きずられたところで小石につまずき転んで引きずれる。

子犬に引きずられること20メートル。子犬は突然止まる。

「……ふぅ。ようやく止まった……俺はなんでこんな依頼を受けちまったんだ……」

時は2日遡る。

俺は事務所でいつものように社長席でくつろいでいた。我が事務所は、ワンルームのアパートを二つ借りている。

一つはプライベートルーム、もう一つが何でも屋の事務所となっている。来客があるときはインターホンが鳴るからわかる。

その日も、事務所用の部屋の社長席で真剣にくつろいでいると、1人の20代くらいの黒髪女性が子犬を連れて現れた。

「あの、こちらならどんなお仕事でも受けてくれると聞いて来たのですが?」
「はい!頼まれごとはなんでもお引き受け!何でも屋です!」

女性の質問にいつもの合言葉と胸にドン!と拳をぶつけるポーズをミキと一緒に決めて、答える。

あ!ちなみにポーズを決めるときの顔は高校球児のようにさわやかな笑顔がポイントな。テストに出るから覚えておくように!

(うーん!今日も決まったな!)
(うん!バッチリだね!)

ミキと俺だけにしかわからない目の動きで会話をする。

「あ……はい」

(反応薄くねえか?ここはもっと盛り上がるところだろう)
(恥ずかしい……)
(おかしいな……ドラゴン○ー○のギニュー特戦隊がポーズを決めた後の空気にそっくりだ)

かくして、宇宙の帝王の隠し球であるエリート戦士たちは、戦いの地へと降り立った……

つづく……

「じゃねぇわ!いたたまれない空気になったからって終わらせるって、適当すぎない!」

こうして、宇宙の帝王は戦いの地へと降り立った

つづく

「そこじゃねえわ!特戦隊のところを直せって言ってんじゃねえんだよ!終わらせんじゃねえって言ってんだろ!Aカップ!」
「あ!男のくせにちょっと胸が膨らんでるじゃんって言われることを気にしてんのに!ひがんでんじゃねえ!谷底カップ!」
「おい!新しい言葉作ってんじゃねぇよ!」

目で語り合っていたのに、結局は言葉による喧嘩を始める

「あ、あの!仕事の依頼をしたいのですが!」
「あ!そうでした!すみません!お見苦しいAカップを見せてしまって。こちらのソファーにおかけください」
「すみません。お見苦しい谷底カップをお見せしてしまって」

我に帰った2人は、女性をソファーへと案内する。

「では、依頼内容を聞いてもいいですか?」
「はい。2日旅行に出かけるので、この子のお世話をお願いしたいのです」

女性は子犬を抱き上げる。

その子犬を見て、ミキとアイコンタクト。

(どうする?犬の世話なんてしたことねぇぞ)
(私も犬の世話なんてしたことないわよ。めんどくさそうだから断る?)

と、2人で相談していると、「通常の依頼料の5倍をお支払いします」

即座に「ベータコイン」のマーク、βに目が変化する。

「ははぁ!そのお勤め!立派にこなして見せまさぁ!お代官様」

こうして、俺たちは子犬を数日預かることになった。

子犬の名前は「ヒッピー・ヨコヅナ」

うん。ピッタリの名前だわ!

このヨコヅナくんは、本当に規格外だわ……

散歩に出かけると、力が強すぎて引きずられまくる。1回の食事は、3キロ食べる。

食事風景を見たときは、

「ふっ……」

しか、リアクション取れなかった。コメディな物語の主人公として情けない!

いやいや。最後まで希望を捨ててはいけないよ。諦めてしまったら、試合はそこで終了だよ。

あ、あん?ざ?センセェぇぇい!

そんなヨコヅナくんを依頼主の女性が迎えに来た。

「ヒッピー!」
「あん!」

2日ぶりの再会に抱き締め合おうとする依頼主と「ヒッピー・ヨコヅナ」くん。

「あ!危ない!」

その光景を見て、俺はヨコヅナくんの突進力を知っているため、咄嗟に間に入ろうとするが、間に合わず。

ドスン!という鈍い音がなる……が

「ヒッピー!」
「あん!」

何事もないように受け止めていた。

「フッ……」

俺はまたしても、コメディが似合う主人公なのに、こんなリアクションしか取れなかった……
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