幸せな離婚
「しっかりしてよね!」
義母が不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「それで、どこで買ってくるつもり?」
「近くのスーパーです」
「もう。トイレットペーパーはスーパーよりドラッグストアのほうが安いって前に教えたじゃない!」
「そうなんですが、今日はスーパーの方が安いんです。それにもう食材も少なくなってきたので買い足したいしATMにも寄りたいので」
「――だめよ、そうやって楽しちゃ!」
義母は私の言葉にかぶせるように続けた。
「まったく。専業主婦の分際のくせに。あそこのスーパーはね、野菜は新鮮じゃないのよ?野菜なら隣町の道の駅が新鮮で美味しいの。その先にはお肉と魚の安いスーパーもあるじゃない。賢い主婦はみんな安い店をはしごするのよ」
「はぁ……」
『みんな』って誰よ、と喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
「優花さんは専業主婦なんだからそういうのをもっと考えないと。健太郎が必死に汗水たらして稼いだお金を散財しないでちゃんと節約しなさい。分かった?」
グチグチ言う義母の言葉を右から左に聞き流す。
まともに受け止めていたら、私はどうかしてしまう。
長い義母のお説教中に、頭の中でプランを練る。
ドラッグストアから道の駅を経由してその先のスーパーへ行く。
近くのスーパーなら車で片道5分。でも3か所回ったら片道30分はかかる。
義母の理屈は理解している。
けれど、きっと義母の頭の中にはガソリン代の概念はない。
義母は免許を持っていない。
そんな人がガソリンが一リットルいくらか、もちろん燃費なんて考え付くはずもない。
腑に落ちなかった。でも、言い返すのは得策ではない。
義母に物申せば、その倍、いや100倍になって返ってくるのだ。
「……はい。分かりました」
笑顔を保っていられるうちに話の切れ目を狙い私は家を出た。
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