優しい微笑みに騙されて
#8
「ゆかっ………‼︎」
馨の声で、目が覚める。なぜか周りに、咲以外のみんながいた。
「よかった……さっき急にレンさんが意識がないゆかちゃんを連れてきたから、何かあったのかと……」
レンさん。その言葉で、さっきの情景がはっきりと脳に浮かび上がる。

「みんなごめん………咲を、守れなかった」

「ゆかちゃん…?」
るなと馨と尋が心配そうに私を見ている。
「目の前で、咲が殺されたのに、何も出来なかった………」
消え入りそうな声で言ったその言葉に、馨が反応する。
「殺された…?咲が?」
馨の声が確実に震えていた。るなの顔は青ざめており、尋は完全に固まっている。
「さっき、トールさん…仮面の男に連れて行ってもらって、レンさんに会ってきた…。そしたら目の前で、咲が………」
「それ以上言うな」
私の言葉を馨が遮る。
「現状はわかった。怖かっただろう?無理に話さなくて良い。恐怖に飲み込まれれば、アイツの思惑通りだ」
馨らしい優しさに、少しだけ恐怖が薄れる。
「ねぇ…ところでさ今までの仮面の男、どうなったの?」
尋のその問いに疑問が残る。
「今までの…?」
それだとまるで、トールさん以外の仮面の男がいるような言い方だ。
「ゆかがいなくなった後、2回もゲームをやっている。もう第4ゲームも終わった所。第3ゲームから急に、仮面の男が変わったから…」
第4ゲーム…。私がレンさんと話してる間に、そこまで進んでいたらしい。そして尋の視線の先にいる人物に視線を移す。そこには、トールさんと似た仮面を付けた別の男性が立っていた。トールさんが私と一緒にいたための代わりだろうか。トールさんに負けないくらいの不気味な雰囲気を出している。

「じゃあそろそろ第5ゲームを始めよっか〜‼︎」

トールさんとは違うテンションで声を出す仮面の男の声に、何かが引っかかる感じがした。私はこの声を昔聞いたことがある。

「第5ゲームは〜グループ内で殺りあってね‼︎3分以内に、グループの中から1人だけ殺そう。誰も死ななかったチーム、2人以上殺したチームはゲームオーバーで全員さようなら〜‼︎」

グループ内で、殺し合う…?私は3人を見る。誰も死んでほしくない。他のグループも、流石に動揺していた。

「はいじゃあスタート〜‼︎」

「どうする…?」
馨の震える声に全員が黙り込む。遠くで発砲の音が聞こえた。誰かが殺したのだろう。私は、誰にも死んでほしくない。これ以上みんなを失いたくなかった。
「私を、殺して」
気づいたら、その言葉が出ていた。
「ゆかちゃん⁉︎」
「ゆか…正気?」
「お前…なんで…」
慌てるみんなを見て、私は苦笑する。
「きっと私は、殺されても死なないから」
「どういう……」
これは、薄々感じてたことだった。レンさんのことだ。私が死なないように、何かしらの細工をしているはず。それなら私が殺されるのが1番だ。



「ゆ………か………?」



耳を張り裂くような爆音が間近で鳴ると同時に、目の前で胸が真っ赤に染まった馨が倒れる。

「え…………」

自分の手に握られている拳銃を見て私は固まる。

今の、私が打った……?

"勝手に体が動いた"そう言う以外の説明の仕方なんて見つからない。

「ゆかちゃん…」
「近寄らないで‼︎」

私に近寄ろうとしたるなに、気づいたらそう叫んでいた。怖かった。もしかしたら、また勝手に殺してしまうかもしれない。咲は殺されたけど、馨は私が殺した。大切な仲間を自分で殺した。その事実だけが胸に刺さる。
「ゆか。僕はゆかを信じてる。馨はゆかが殺したんじゃない。レンさんがゆかを操っただけだ。ゆかのせいじゃない。レンさんの目的はゆかに恐怖を味あわせることだよ。彼の思い通りにならないでよ」
尋は強い意志の宿った瞳で私を真剣に見つめる。
「僕はゆかに殺されたって構わない。ゆかを信じてるから。一緒に彼らと戦おうよ」
「私も、ゆかちゃんを信じてる。3人で、戦おう」
尋とるなの言葉で、一気に不安から解放される。大丈夫だ。まだ戦える。私は軽く深呼吸してから2人に笑顔を向ける。
「ありがとう」
私の言葉に、2人は満面の笑みを浮かべてくれた。
「「どういたしまして」」
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