優しい微笑みに騙されて
#9
「ゲーム終了〜‼︎」
仮面の男の大きな声が聞こえる。
「もう少し脱落グループ出るかと思ったけど、殺せなかったのは2チームだけなんだね〜‼︎」
2チームだけ…。他のグループはみんな、誰かを殺したのだろう。まるで殺人が当たり前になってきている。
「じゃあおなじみの自由時間〜‼︎そろそろゲームも終盤だからしっかり休みなよ‼︎」
仮面の男の声が終わると同時にみんながバラける。
「僕たちも行こうか」
尋の声に頷いて、その場を離れようとした時だった。

「ユカさん」

聞き覚えのある声が聞こえる。振り向いた所にいたのは、想像通りトールさんだった。ただ、仮面は付けていなかった。
「何の用ですか?今は休憩したいのですが」
冷たく言い捨てる尋にトールさんは苦笑する。
「ユカさん…その、なんかすみません」
「え………?」
そこまで言われて、ようやくトールさんの後に人がいることに気づく。人がいるというよりかは、トールさんに無理矢理押さえつけられていた。綺麗な栗色の髪に青色の瞳。レンさんとトールさんを混ぜたような容姿の可愛い系の雰囲気を醸し出している男子だった。
「トール兄様‼︎なんでそんなに僕のことおさえるんですか?僕が先にユカと話そうとしたのに‼︎」
その声で、ようやく新しい仮面の男だと分かる。
「仮面の男が2人揃って登場ですか?何をしたいんですか?」
探るような冷たい視線をトールさん達に向けなが尋はそう言った。
「ごめん。俺もわからない」
トールさんはそう言って苦笑すると、仮面の男を離す。

「ユカ‼︎会いたかった‼︎」

突然、仮面の男に抱きつかれた。
(ん………?)
流石に困惑が隠せない。急に抱きつかれた挙句、会いたかったと言われて動揺しない人はいないだろう。尋もそれを呆然と眺めている。
「ユーリ…言っただろう?ユカは昔の記憶がないって」
気がつくと目の前に立っていたレンさんはそう言って私に抱きついていた仮面の男を引き剥がす。
「昔の記憶が……ない…?」
思わず私は、繰り返しそれを言っていた。何を言ってるのだろうか。私はちゃんと昔の記憶がある。幼少期の頃もしっかり覚えている。るなも尋も理解不能というような顔をしていた。ただ、何かが引っかかる。
「そっかぁ。そしたら改めて。ユーリです。よろしくねユカ‼︎」
仮面の男…ユーリさんはそう言うと笑顔で手を差し出す。尋はその手を振り払うと私の手を掴む。
「るなもゆかも、もう行こ………」
「ねぇ、尋くんだっけ?」
尋の言葉に被せるようにユーリさんは口を開く。
「君、ユカのこと好きなの?」
意図の読めないその質問に、尋は躊躇いもなく答えた。

「好きで、何が悪いのですか?」

「尋……?」
突然の告白に、動揺してしまう。
「ユカ」
いつのまにか目の前にいたユーリさんに呼ばれ振り返った瞬間、唇に温かい感触が残る。
「………っ⁉︎」
ユーリさんの唇が離れた瞬間、動揺で後に倒れそうになった所をレンさんに抑えられた。
「ユーリ…抜け駆けは禁止だっただろう?」
わかった時には、既にレンさんにもキスをされていた。ただ、ユーリさんの時と何かが違った。口の中に、何か丸い、薬のようなものが入り込む。
「何……を」
私のその問いに答えてくれる人はいなかった。目の前にはもうレンさん達はいなかった。

ただ、るなと尋が殺意を露わにしているだけだった。
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