泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
店員と常連客
明日への活力など寝て起きればもうリセットされているわけで――。

紗良は五時半の目覚ましでむくりと起き上がった。

身支度を整えながら、夜のうちにタイマーをかけておいた洗濯物をベランダに干す。
それが終われば朝食の準備にとりかかるが、朝からあれこれ作る余裕はないため今日はピザトーストだ。

オーブントースターで焼いていると紗良の母が起きてきて、あとを母に任せて紗良は寝室へ。

「海斗、起きなさーい。朝だよー」

寝相悪く布団から半分飛び出しながらもまだぐーすか寝ている海斗を揺り起こす。

「……うーん」

どこでそんな技を覚えてきたのだろうか、ごろんと寝返りを打ちながら器用に布団に丸まる海斗。

「保育園遅刻するよー」

容赦なくぺりっと布団を剥がし、寝ぼけ眼の海斗を着替えさせる。抱っこでダイニングまで運び、焼き上がったピザトーストを食べさせつつ紗良も急いで胃に流し込んだ。

「今日は午後から雨みたいよ。傘持っていきなさいね」

朝の情報番組のお天気コーナーを見ていた母がのんびりとお茶を飲みながらそんな事を言い、紗良はそれを頭の片隅に置いておきながら海斗の身支度を整える。

「ほら、海斗行くよ」

「おばーちゃん、いってきまーす」

「はいはい、いってらっしゃい。ほら、紗良、傘忘れてる」

「あっごめん、ありがとう」

自分のカバンに傘に、海斗の保育園の着替え一式。軽自動車の助手席に雑に起き、海斗を後部座席へ乗せた。

保育園までは車で五分ほどだ。近いけれど、海斗を車へ乗せたり降ろしたりする動作は意外と時間がかかる。四歳児だがまだまだ一筋縄ではいかないことが多い。

保育園の門が開くと同時に海斗を預け、紗良は急いで職場へ向かう。朝の時間帯は交通量が多く、渋滞になりそうな道を時間と戦いながら安全運転で進み、職場の駐車場から執務ビルまではダッシュだ。

そうして始業時間ギリギリに席に座り、汗だくのまま仕事が始まる。

これが紗良の毎朝の風景だ。
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