泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
気づき始めた気持ち
杏介は、海斗が通っている土曜昼は初級コースの担当、平日は上級コースを担当している。

昨今のプール教室は人気で、生徒数は年々増加傾向にある。
特に火曜日は選手育成コースがあり、レベルが高く他よりも年齢層も高い。
通常のコースとは違い、水泳検定だって受けられるようになるのだ。

誰もが選手になりたいし受験を考えている子は内申書に書けるため、子供よりも親が必死になっていることもある。

だから今日みたいに、レッスン後に親から呼ばれることもざらだ。

「先生、最近うちの子どうでしょう?」

「頑張っていますよ。持久力が上がるともっとスピードも伸びると思います」

「個人レッスンも考えているんですけどぉ」

「ええ、夏休みや冬休みはそういったレッスンも募集がかかりますので、ぜひ活用してみてください」

「それは先生が教えてくださるんですか?」

「希望制ですが、人数が多いとお断りすることもあります」

「そうなんですね。うちは滝本先生じゃないとダメなのでぜひお願いします」

「それは光栄です」

当たり障りのない受け答えをしつつ、なおも食い下がろうとする親を軽くいなす。
自分が求められてありがたい反面、親の期待が大きく、それは杏介にとってプレッシャーだ。

「はぁー」

レッスン後の事務所で思わずため息が漏れた。

「杏介、ずいぶん粘着されてたな」

ちょうど通りかかり聞き耳を立てていた同期の小野航太が、コーヒーを手にニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。

「個人レッスン希望らしいけどやる気があるのは親御さんだけなんだよ。本人のやる気はいまいちだったな」

「だってお前それ、レッスンにかこつけて杏介狙いだろ?」

「うーん、やっぱり?」

なんとなく、思う節はある。
やたらと腕を触ってきたり、話すその距離感が近いような気がしていたのだ。
あまり考えないようにはしていたのだが。
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