俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「とにかく、私のかわいい後輩にあんな顔させないでくださいね! 夫婦ならしっかり守ってあげてよ」

 南はプリプリしながら去っていった。とはいえ、彼女の言い分はもっともだ。職場でもはっきりとわかるほどに妻が悩んでいるのなら、きちんと話を聞くのが自分の役目だろう。善は空になった缶をグッと握り締め、決意を固めた。

 しかし、善の決意もむなしく日菜子のほうは話をする気はなさそうだ。いつもより多少は早い夜九時に帰宅して、すぐに声をかけたが「気分が優れない」と彼女は部屋を出ていってしまう。

 冷たく閉められたリビングの扉を善は呆然と見つめた。そのとき、テーブルの上のスマホが突然振動し、善はびくりとする。

「あぁ、日菜子のか」

 善をさけるように出ていったので持っていくのを忘れたのだろう。少し時間を置いてから届けようと手に取ろうとしたところ、誤って、たった今届いたらしいメッセージを開いてしまった。読むつもりはなかったけれど、その文面は善の目に飛び込んでくる。

【それじゃ、土曜日の午後二時に今日と同じカフェで。楽しみにしてる 悠馬】

 善は目を疑った。

(悠馬って、柘植か? この文章だと今日も会ってたってことになるが……)

 自分とは話もできないほどに体調が優れないのに、ほかの男とカフェに行く余裕はあったのだろうか。日菜子が自分以外の男に笑いかけているところを想像するだけで、たまらない気持ちになる。

(あの顔を知るのは、俺だけでいいのに……)

 日菜子は自分の所有物ではない。頭ではそう理解しているのに、子どもじみた独占欲で気が狂いそうになる。

(今さら、柘植なんかに渡すかよ!)
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