俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
(善さんに話すのは、はっきりさせてからでもいいよね)

 まずは妊娠の事実を確かめることにしよう。意外と冷静に日菜子はそう考えた。

 あまり体調はよくないけれど、動けないほどではない。日菜子はサッと着替えを済ませ、マンションを出た。近所のドラッグストアに行くためだ。

(病院のほうがいいんだろうけど、今日は日曜日だし。市販薬もかなり正確だと聞いたことがあるもの)

 目的のものはすぐに見つかり、思っていたよりずっと安価で驚いてしまった。すぐに帰宅したのだが……ためしてみるまでにはかなりの時間を要してしまった。トイレに向かっては戻ってくるという動きを何度も繰り返し、ようやく勇気を出せたのは昼すぎのことだった。

「――陽性」

 うっすらではなくはっきりと、陽性を示すラインが出ている。驚きよりもやっぱりという気持ちのほうが強かった。この体調不良がこれまでとは違うことを本能的に感じ取っていたのかもしれない。

 ただ、覚悟があったとはいえ戸惑いは大きい。日菜子はオロオロと部屋中を歩き回った。自分ひとりでは抱えきれなくなって、とうとう善に電話をしてしまった。つながらないかもと思ったが、そう間を置かずに彼の声が耳に届く。

『もしもし。日菜子か?』
「あ、ごめんなさい。お仕事中でしたか?」
『あぁ、悪い。まだちょっと帰れそうもないんだ。具合は?』

 忙しそうなのに体調を気遣ってくれる彼の優しさがうれしかった。

「大丈夫です。あの、善さん!」
『なに?』
「今日はどのあたりに? ご迷惑でなければ、迎えに行ってもいいでしょうか」

 電話ではなく顔を見て話したいと思った。家で待つのも落ち着かないし、少しでも早く彼の顔を見たかった。
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