俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 迷ったけれど、今は出ないことにした。自分がなにを口走ってしまうかわからないから。電話は数分おきに何度か鳴ったけれど、日菜子が出ないので諦めたのだろう。代わりにメッセージが届いた。

【悪い。予定外に用事が長引いてる。申し訳ないが、やっぱり家で待っていてくれないか? できるだけ早く戻るから。 善】

(まだ南さんと一緒……本当に仕事なの?)

 南は同僚と仲よくしたいという日菜子の夢を叶えてくれた大好きな先輩だ。疑うようなことはしたくない。だけど、心に黒いモヤがかかって、やるせない気持ちになる。

 部屋に戻った日菜子はそのままベッドに潜り込んだ。できたら、善が帰ってくる前に寝てしまいたかった。

(顔を合わせたら、ひどいことを言ってしまいそうだもの)

 だけど、眠れるはずもない。自分の妊娠の事実、善と南の関係、今後のこと……いろいろなことが頭に浮かぶけど、どれも解決策は見つからない。

 午後九時過ぎ。善が帰宅した物音に、日菜子は慌てて頭から布団をかぶる。間を置かずに、ノックの音がして彼が部屋に入ってきた。

「日菜子? 寝ちゃったのか」

 答えないでいると。彼は小さく息を吐いた。

「今日はごめん。おやすみ」

 それだけ言って、彼は部屋を出ていった。

(今夜、善さんが帰ってこなかったらどうしようかと思った)
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