合意的不倫関係のススメ
「…いや、ごめん。どうするって聞く自体が、間違ってるよな」

表情を見れば、蒼が葛藤しているのが手にとるように分かる。

(やっぱり私達、似てる)

生い立ちの所為も、あるかもしれない。けれどそれだけではないとも思う。

私達はきっと、互いでなければならない。

そうであればいいという、願望も含めて。

「どうするっていうか、どう思うってことなら私も最近頭に浮かんでたの」
「茜、も?」
「私達って、本当に似てるね」

くすくすと笑いながら、蒼の頬に手を伸ばす。

もう、十年。けれどまだ、たったのそれだけ。

これからも私は、この人の色々な顔が見たいと思う。支えたいし、支えられたい。

今までの私達はきっと、共依存に陥っていたのだろう。離れたくない、離したくないと恐怖ばかりが先行していた。

人間の本質は、そう簡単には変わらない。けれどこれからは、互いの欠点を互いで補い合うのだ。

似ているということは、負の相乗効果だと思っていた。そしてそれは自分次第でどうにでも変えていけると、私達は学んだ。

「今までは二人とも秘密を持ってたから、余裕がなかったんだと思う。それに親からのトラウマもあって、簡単には考えられなかった」
「…うん、そうだね」
「愛情を与えられなかった自分が、誰かに愛情を与えるなんてことができるのか。もしも、間違えてしまったらどうしようって思うと怖かった」

子供は授かり物、こちらの意思を容易く反映できる話ではないと分かっている。

「蒼とね、ご飯を食べたりテレビを見たり、買い物したり、話をしたり。凄く楽しくて幸せで、そういう毎日の真ん中に蒼と私の子供がいたら、きっと幸せが増えるだろうなって。何もかもがプラスになって、マイナスだと思えることもプラスになって、笑顔も泣き顔も全部全部、愛おしく思えるんじゃないかって」

触れている蒼の頬が、微かに震えている。私は身体を起こすと、そっと彼に寄り添う。

「私達と、私達の親は違う。だって、蒼との子供だよ?可愛くないって思う日が来るなんて、想像できない」
「うん…うん…」
「もちろん、子供を産んで育てることって想像以上に大変だろうし、たくさん悩んで喧嘩もするかもしれない。でも」

耳元で彼の穏やかな声が響く。涙に掠れたその音を、私は心底愛おしく思った。

「「絶対、後悔はしない」」

声が重なり、互いに驚き顔を見合わせる。額を合わせ、笑う。

「凄い、シンクロしちゃった」
「本当になぁ…茜は凄いよ」
「蒼がいるから、強くなりたいと思えるの」

彼は私の耳に、そっと髪をかける。唇を触れ合わせ、私は彼の目尻を指で拭った。

「愛してる」
「私も」
「茜との子供が、俺も欲しい」

はっきりと言葉に出されたそれを聞いた瞬間、私の瞳からもぽろりと涙が溢れる。

互いの涙を拭い合いながら私達は何度もキスを交わし、微笑み合った。
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