合意的不倫関係のススメ
いつも優しい彼が、更に優しく甘くなる。二人で夕食を食べ湯船に浸かり、そろそろ寝なければならないような時刻となった。

「茜」

リビングのソファに座り、蒼が私の名を呼ぶ。素直に従い、傍に寄り添った。彼の肩に頭を乗せると、優しい手つきで髪を撫でられる。

「ねぇ、茜」
「んー?」
「俺は、茜しか見えてないよ。信用できないかもしれないけど、茜だけだから」
「…うん」

私はもう二度と、彼を責めることはできない。あの日とは違い、今回のことは私が仕掛けたことなのだから。

いわばこれは《《合意の元》》の不倫。只の可哀想なサレ妻ではないし、決して被害者ではない。

「愛してる。ずっと傍にいて」

(それは私の台詞だよ、蒼)

喉から絞り出そうとした声は、微かな吐息となってすぐに消えた。

「ねぇ、キスしてくれる?」
「聞かなくてもいいのに」

そう言って小さく笑いながら、私の唇にキスをする。それは子供がするような軽いものだったけれど、胸を抉られる程に嬉しかった。

(好き、愛してる、離れたくない)

私を本当の意味で愛してくれたのは、家族では蒼ただ一人。彼を失いたくない、その為なら私
は何だってできる。

そう決心したからこそ、こんな行動に出たのに。

「もう二度と、あんな過ちは犯さない」

ぽつりと呟いたその言葉に、聞こえないふりをする。それがどれを指すのか、私には分からない。

「ごめん、蒼。私まだ眠れそうにないから、先に寝ててくれる?」
「だったら俺も一緒に」
「明日も早いでしょ?無理しないで。私は遅番だから、少し寝坊させてもらうね」

柔らかく目を細めた私に、蒼はそれ以上食い下がってこなかった。彼が寝室に入ったのを確認して、ソファーに寝転がる。

(あんなとこで寝れない)

ああ。私はなんて、自己中心的な人間なのだろうか。瞼を閉じるよりも先に、視界から光が消えていった。

ーー翌朝私は、蒼が出て行った後寝室に仕込んでいた小型カメラを回収した。映像の確認なんて出来るはずもなく、適当な紙袋に入れクローゼットに押し込んだ。

寝具一式を変えられるだけ新しいものに換えても、模様替えをした後のような爽快感は全く得られなかった。
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