戻り駅
 一瞬鞄の中のお弁当箱の存在を思い出して気になったけれど、そんな自分が滑稽でおかしかった。今お弁当が痛むとかそんなこと、どうでもいいことだった。


《美紗:誠も心配してるよ》


 誠の名前を見た瞬間胸が痛んだ。


 何度も何度も私の前でひき殺された誠。


 次こそは、今回こそは絶対に助けたい。


 スマホを握り締める手にギュッと力をこめたとき、足音が聞こえてきてスマホをポケットに戻した。


 電信柱の影から確認してみると、黒い服を着た良治が空き地の中へと入っていくのが見えた。


 良治は空き地にまだ車が来ていないことを確認するとポケットからタバコを取り出し、慣れた手つきで吸い始めた。


 そんな良治を見たのは初めてで、緊張して手に汗が滲んできた。


 良治は時々スマホで時間を確認するだけで、特に行動を起こそうとはしてない様子だ。


 きっと待ち合わせ時間までにまだあるのだろう。


 私はゴクリと唾を飲み込んで体勢を直した。その瞬間足元に転がっていたガラス瓶を蹴ってしまった。ビンは軽く音を立てながら空き地のほうへコロコロと転がっていく。

「誰だ!?」


 タバコで落ち着きながらも神経を張り詰めていたのか良治が険しい声で叫んだ。その声にビクリと体が震える。


 良治の足音がこっちへ近づいてくる。
< 49 / 116 >

この作品をシェア

pagetop