戻り駅
☆☆☆

 教室へ入ったとき六時間目が始まるギリギリの時間だった。


美紗がチラリと視線を向けてきて「セーフだね」と、口パクで言ってきた。


 私はそんな美紗に少しだけ笑い返した。だけど笑えるような気分ではなかった。


 自分の席に座って六時間目の教科書を取り出しながら、意識は誠へ向かう。


 こうして意識して見ると誠と良治の机は前後で近く、二人は楽しげに会話をしているのがわかった。その様子に少し驚きつつも、二人の態度に違和感がないことを感じた。普通のクラスメート、友人と言った感じだ。


 それが一週間後にあんなことに……。


 そう考えると胸が苦しくなって右手で押さえた。少し乱れた呼吸を整えて膝の上でスマホを開く。


 前の時空き地の前で落としてきたけれど、こうしてちゃんと手元にある。もちろん、アゴから派手にこけてしまった傷ももう治っていた。


《琴音:最近、良治となにかあった?》


 チラリと誠の方を向くと視線がぶつかった。誠は軽く首をかしげている。


《誠:なにもないけど、どうした?》


 本当だろうか。


 もしかして私に言えないことでもあったんじゃないだろうか。


 もう一度メッセージを送ろうとしたとき前のドアから先生が入ってきて、授業が開始されてしまったのだった。
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