魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
最高に綺麗だよ
私が遅番で勤務に入った時には、すでに空は大荒れだった。


「椎名、間に合ったか」


ハンガーに駆け込んだ私に気付いた主任が、作業の手を止めて声をかけてくれた。


「すみません! ギリギリになっちゃって……」


私が恐縮しながら走り寄ると、「いや」と首を振る。


「公共交通機関は、空も陸もやられてるしなあ。この状況で間に合うなんて、むしろ感心だ。相当早く家出てきたろ」


ニッと目を細めて笑われて、私も苦笑で返した。
辺りを見回すと、明らかにいつもより整備士が少ない。
私たちのチームは、遅番で他に四人シフトされている。
そのうちの一人、佐伯さんの姿もない。


「あの……」


みんなの出勤状況を気にする私の横で、主任は滑走路に面した大きな扉に視線を投げた。


「かなり横風が強いな。午後に入ってから、もう五機ゴーアラウンドだ。上空も着陸許可待ちの便で渋滞してる」


人の少なさより、飛行機のランディングを気にかける主任の前で、私も気を引き締めた。


「想定以上の荒天ですね。昨日のうちに、代替機手配しといてよかった」


改めて、佐伯さんの臨機応変な対応力に傾倒していると。
< 169 / 222 >

この作品をシェア

pagetop