やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?
4
ビアンカはむっくりと起き上がると、ベッドを整えた。ボネッリ伯爵と父が、きょとんとこちらを見る。
「ビアンカ?」
「寮へ戻ります。お世話になりまして、ありがとうございました」
ビアンカは、ぺこりとボネッリ伯爵に頭を下げた。伯爵が、わかりやすくうろたえる。
「いやいやいや! 殿下へのお返事が、まだだというのに……」
「私の考えは変わりませんから。滞在が長引いてお困りなら、直接私から、殿下にお断り申し上げます。それでも留まると殿下が仰るなら、カブリーニ邸でお過ごしいただきます。それならボネッリ様に、ご迷惑はかかりませんでしょう?」
「ちょっ、ビアンカ! 勝手な……」
父が青ざめる。それを無視して、ビアンカはスタスタと扉の方へ向かった。
「いずれにしても、いつまでもボネッリ様のお宅でお世話になるわけにはいきませんわ。一度、寮へ戻りませんと」
「わかった、わかった! ひとまず寮へ送るから、道中、話をしような?」
機嫌を取るように猫なで声を出しながら、父は追いかけて来たのだった。
カブリーニ家の馬車に乗り込むと、父は早速説得を開始した。
「お前が真面目なのは、よくわかっているが。物事には、えーと、そう、タイミングというものがあるぞ? これを機に、お前の料理番人生が開けるやもしれぬ」
暗記した台本を読むように喋っている。そう言えと母に言われたか、とビアンカは嘆息した。
「それに、王都での生活も、不安に思うことはないぞ? 協力者が現れたのだ」
「協力者?」
怪訝に思い、ビアンカは父の顔を見た。すると父の口からは、とんでもない名前が飛び出した。
「チェーザリ伯爵だ」
「テオ……、いえ、チェーザリ伯爵が!?」
そうだ、と父が嬉しげに頷く。
「武芸試合の日に、我が家へいらしてな。殿下がお前を専属料理番にされたがっているという話を聞きつけたそうで、力になると言ってくださった」
そういえば、武芸試合会場にはいないと思っていたが、カブリーニ家へ行っていたとは。テオは一体何を考えているのだろう、とビアンカは眉をひそめた。
「ビアンカ嬢は、王都に馴染みがなくご不安だろうから、私でよければ案内する。だから安心していらして欲しいと仰っていたぞ」
いけしゃあしゃあと、とビアンカは歯ぎしりした。ビアンカが社交界デビューして王都に滞在していたことは、誰よりもよく知っているくせに。
「優しくてよく気が付く、いい方だな。お母様は、お前をステファノ殿下のお妃にと期待しているようだが、なかなか難しいだろう。お前を見初めてくださったことだし、チェーザリ様に嫁ぐのもいいかもしれん……」
「それだけはあり得ません!」
ビアンカは、力の限りわめいていた。
(二度も、騙されないでくださいませ……)
そうこうしているうちに、騎士団寮へ到着する。そこでビアンカは、ぎょっとした。寮の前に、四頭立ての馬車が駐まっていたのだ。この豪華さは……。
(ステファノ殿下が、いらしている!?)
「ビアンカ?」
「寮へ戻ります。お世話になりまして、ありがとうございました」
ビアンカは、ぺこりとボネッリ伯爵に頭を下げた。伯爵が、わかりやすくうろたえる。
「いやいやいや! 殿下へのお返事が、まだだというのに……」
「私の考えは変わりませんから。滞在が長引いてお困りなら、直接私から、殿下にお断り申し上げます。それでも留まると殿下が仰るなら、カブリーニ邸でお過ごしいただきます。それならボネッリ様に、ご迷惑はかかりませんでしょう?」
「ちょっ、ビアンカ! 勝手な……」
父が青ざめる。それを無視して、ビアンカはスタスタと扉の方へ向かった。
「いずれにしても、いつまでもボネッリ様のお宅でお世話になるわけにはいきませんわ。一度、寮へ戻りませんと」
「わかった、わかった! ひとまず寮へ送るから、道中、話をしような?」
機嫌を取るように猫なで声を出しながら、父は追いかけて来たのだった。
カブリーニ家の馬車に乗り込むと、父は早速説得を開始した。
「お前が真面目なのは、よくわかっているが。物事には、えーと、そう、タイミングというものがあるぞ? これを機に、お前の料理番人生が開けるやもしれぬ」
暗記した台本を読むように喋っている。そう言えと母に言われたか、とビアンカは嘆息した。
「それに、王都での生活も、不安に思うことはないぞ? 協力者が現れたのだ」
「協力者?」
怪訝に思い、ビアンカは父の顔を見た。すると父の口からは、とんでもない名前が飛び出した。
「チェーザリ伯爵だ」
「テオ……、いえ、チェーザリ伯爵が!?」
そうだ、と父が嬉しげに頷く。
「武芸試合の日に、我が家へいらしてな。殿下がお前を専属料理番にされたがっているという話を聞きつけたそうで、力になると言ってくださった」
そういえば、武芸試合会場にはいないと思っていたが、カブリーニ家へ行っていたとは。テオは一体何を考えているのだろう、とビアンカは眉をひそめた。
「ビアンカ嬢は、王都に馴染みがなくご不安だろうから、私でよければ案内する。だから安心していらして欲しいと仰っていたぞ」
いけしゃあしゃあと、とビアンカは歯ぎしりした。ビアンカが社交界デビューして王都に滞在していたことは、誰よりもよく知っているくせに。
「優しくてよく気が付く、いい方だな。お母様は、お前をステファノ殿下のお妃にと期待しているようだが、なかなか難しいだろう。お前を見初めてくださったことだし、チェーザリ様に嫁ぐのもいいかもしれん……」
「それだけはあり得ません!」
ビアンカは、力の限りわめいていた。
(二度も、騙されないでくださいませ……)
そうこうしているうちに、騎士団寮へ到着する。そこでビアンカは、ぎょっとした。寮の前に、四頭立ての馬車が駐まっていたのだ。この豪華さは……。
(ステファノ殿下が、いらしている!?)