やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「というわけで、はい、ウィッグをお届けに参りましたわ」

 ルチアは、持参した箱を、ビアンカに差し出した。

「ついでに舞踏会までの間、フォローさせていただきますわね。お母様のお言いつけですの。あ、当日はお父様がエスコートに来られます。私と一緒に来たがっておられたのですが、ギリギリまで残って仕事をこなせと、お母様からお尻を叩かれていまして」

 立て板に水といった調子で説明し終えると、ルチアは二人の侍女の方を向き直った。

「ああ、失礼しましたわ。ご挨拶が遅れまして……。私、ビアンカの妹のルチアと申します」

「とんでもありません。私はイレーネ様の侍女をしております、エレナでございます」

「私は、マリアと申します。宮廷舞踏会までの間、ビアンカ様のお世話をするよう、イレーネ様から仰せつかっておりますの」

 二人の侍女は、順に自己紹介した。イレーネというのは、ゴドフレードの妃だ。どうやら、王太子夫妻も承知のことらしい。

「お世話になりますわ。姉を、よろしくお願いいたしますわね。……あら、そちらはもしや、ドレスかしら?」

 ルチアが、部屋に置かれた箱に目を向ける。そうですわ、と侍女たちが華やいだ声を上げる。

「今、ビアンカ様にもご覧に入れようと思っていたところですの。お開けいたしますわね」
「まあっ、楽しみだわ!」

 ルチアはあっという間に、侍女たちと打ち解けてしまった。三人で、きゃいきゃいと箱を開けている。

「うわあ、素敵!」

 ドレスが現れた途端、ルチアはため息を漏らしたが、ビアンカは目を剥いた。

(赤色じゃないの!)

 目を擦ってみたが、どう見ても赤だ。燃えるような赤だ。真っ赤っかだ。

(赤いドレスをまとったせいで、前回あれほど嫌な目に遭ったというのに……!)

 ステファノは、何を考えているというのか。ビアンカは、くるりと踵を返した。侍女たちが、慌てた声を上げる。

「ビアンカ様!?」
「殿下に、抗議してくるわ!」

 彼女たちが止めるのも待たず、ビアンカは部屋を飛び出したのだった。
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