やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?
10
ビアンカは、真っ直ぐ与えられた部屋へ向かった。ノックもせずに扉を開けると、ルチアは驚いたようにこちらを見た。
「お姉様? 舞踏会、もう終わったんですの?」
「私、寮へ帰るわ」
慌ただしく着替え始めたビアンカを見て、ルチアは仰天したようだった。
「一体、舞踏会で何があったのです? 嫌な思いでもしたのですか?」
「いえ……。嫌な思いをさせたのは、私だわ」
ステファノの顔を見ることはできなかったが、傷つけたのは確かだ。それも、大勢の前で恥を掻かせて。あれほど誠意の限りを尽くしてくれたのに、恩を仇で返してしまった。
(それでも……、求婚をお受けするわけにはいかないわ)
――子は好きでございます。
――賑やかな家庭を作りたい。
ステファノの言葉が蘇る。後々失望させるくらいなら、今の時点でお断りした方がいい。ビアンカは、そう自分に言い聞かせた。
(結局、人生をやり直したところで、ご縁はなかったのよ……)
ルチアは、当惑したような声を上げた。
「いずれにしても……。帰られるのは、困りますわ。私、まだこちらに用がありますの」
「なら、あなたはお残りなさい。お父様と一緒に、後で帰るといいわ」
どのみち、父はまだ失神中だろうから、とビアンカは考えを巡らせた。
「カブリーニ家の馬車を使わずに、お姉様はどうやって帰られるのです!? ここまでは、護送されて来たのでしょう?」
「辻馬車を使うわよ!」
ひえっと、ルチアが奇声を発する。
「ボネッリ領まで辻馬車だなんて、正気ですか? 倹約家のお姉様が……。一体、おいくらかかると……?」
「今までのお給料を全部使い果たしたところで、構いやしないわ!」
着て来た服に着替え終わると、ビアンカは、脱いだドレスを丁寧に畳んだ。アクセサリー類、ティアラと共に、きちんとベッド上に並べる。
「置いていかれるんですの? ねえ、殿下と何が……」
「後で話すわ。侍女の方々には、よろしく伝えてちょうだい」
ルチアを振り切って、ビアンカは部屋を飛び出した。幸い、舞踏会に集っているせいか、王宮内に人は少ない。ビアンカは、誰にも見とがめられることなく、王宮を出た。
(早く、辻馬車をつかまえて……)
門をくぐり抜けたところで、ビアンカは前からやって来た男とぶつかりそうになった。謝りかけた矢先に、男は驚いたような声を上げた。
「ビアンカさん!?」
その顔には、覚えがあった。ドナーティやアントニオと共に、料理の食べ比べをしてくれた、コリーニという王立騎士団員だ。エルマと、知り合いの様子だった……。
「お姉様? 舞踏会、もう終わったんですの?」
「私、寮へ帰るわ」
慌ただしく着替え始めたビアンカを見て、ルチアは仰天したようだった。
「一体、舞踏会で何があったのです? 嫌な思いでもしたのですか?」
「いえ……。嫌な思いをさせたのは、私だわ」
ステファノの顔を見ることはできなかったが、傷つけたのは確かだ。それも、大勢の前で恥を掻かせて。あれほど誠意の限りを尽くしてくれたのに、恩を仇で返してしまった。
(それでも……、求婚をお受けするわけにはいかないわ)
――子は好きでございます。
――賑やかな家庭を作りたい。
ステファノの言葉が蘇る。後々失望させるくらいなら、今の時点でお断りした方がいい。ビアンカは、そう自分に言い聞かせた。
(結局、人生をやり直したところで、ご縁はなかったのよ……)
ルチアは、当惑したような声を上げた。
「いずれにしても……。帰られるのは、困りますわ。私、まだこちらに用がありますの」
「なら、あなたはお残りなさい。お父様と一緒に、後で帰るといいわ」
どのみち、父はまだ失神中だろうから、とビアンカは考えを巡らせた。
「カブリーニ家の馬車を使わずに、お姉様はどうやって帰られるのです!? ここまでは、護送されて来たのでしょう?」
「辻馬車を使うわよ!」
ひえっと、ルチアが奇声を発する。
「ボネッリ領まで辻馬車だなんて、正気ですか? 倹約家のお姉様が……。一体、おいくらかかると……?」
「今までのお給料を全部使い果たしたところで、構いやしないわ!」
着て来た服に着替え終わると、ビアンカは、脱いだドレスを丁寧に畳んだ。アクセサリー類、ティアラと共に、きちんとベッド上に並べる。
「置いていかれるんですの? ねえ、殿下と何が……」
「後で話すわ。侍女の方々には、よろしく伝えてちょうだい」
ルチアを振り切って、ビアンカは部屋を飛び出した。幸い、舞踏会に集っているせいか、王宮内に人は少ない。ビアンカは、誰にも見とがめられることなく、王宮を出た。
(早く、辻馬車をつかまえて……)
門をくぐり抜けたところで、ビアンカは前からやって来た男とぶつかりそうになった。謝りかけた矢先に、男は驚いたような声を上げた。
「ビアンカさん!?」
その顔には、覚えがあった。ドナーティやアントニオと共に、料理の食べ比べをしてくれた、コリーニという王立騎士団員だ。エルマと、知り合いの様子だった……。