やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

8

「……というわけで、今から王宮へ赴こうと思うのですが、よろしいでしょうか?」

 まだ混乱しつつも、ビアンカはエルマに相談した。エルマは、二つ返事で了承した。

「悪いわけがあるかね」
「ええと、コリーニ様へご伝言などは……」
「あたしのことは、いいさ! あんたはとにかく、自分の役目を果たしておいで」

 スザンナも、横で期待に目を輝かせている。ビアンカはエルマに急き立てられるがまま、手早く荷造りした。ステファノは、またもや代役の料理番を王宮から連れて来ていたが、エルマがスザンナと二人で間に合うと言うので、それは断ることにする。

 寮の外へ出ると、ステファノはビアンカにうやうやしく手を差し伸べた。ドキドキしながら手を取られ、馬車に乗り込む。中に入って、ビアンカはぎょっとした。

(広い。広すぎる)

 いや、そうではなくて。なぜステファノは、当然のように一緒に乗り込んで来るのだろう。そして、お付きの者が丁重に扉を閉めたところを見ると、この馬車に乗るのは、ビアンカとステファノの二人だけらしい。

「座らぬのか?」

 促されて腰かければ、ステファノはぴたりとくっついて隣に座った。これだけゆったりした作りの馬車なのだ、いくらでも他にスペースはあるというのに。

「あの、ええと、ですね」

 吸い込まれそうに柔らかな座席の座り心地に感動しながらも、ビアンカはやっと言葉をつむいだ。

「先日は、申し訳ありませんでした。せっかくご招待いただいたのに、舞踏会は途中で抜けてしまい、しかも勝手に王宮から帰ってしまって……」

 話し合うべき本題はそれではないのだが、取りあえず非礼について詫びる。

「お手紙を出そうと思ったのですが、何と書いてよいかわかりませんでした」
「その件は、兄上から聞いておる。突然のことで驚いたのであろうと、兄上夫妻も怒ってはおられないので、安心せよ」

 確かに、腹を立てているなら、イレーネのために呼び出したりはしないだろう。ひとまず、安堵する。

「そして、そなたが置いて行ったドレス類だが。遠慮したのであろうが、あれはそなたに贈ったものだ。だからここへ来る前、カブリーニ家へ寄って届けたぞ」

「え、我が家へいらしたのでございますか?」

 ビアンカは、目を見張った。ああと、ステファノが頷く。

「カブリーニ子爵は、何やら頬を腫らしておったな。夫人は、手を伸ばしたら、たまたまぶつかってしまったのだと説明しておられたが」

(は、恥ずかしい……!!)
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