先生と私の三ヶ月

8話 嫉妬

 風邪もすっかり治った8月2週目の午前中。
 今、心臓がドキドキして仕方ない状況にいる。

 ここは先生の書斎の、先生の机の前。
 私はなんと先生の膝の上で先生と向い合せになるように座らされている。
 
 先生の膝の上に座った分、私の方が高くなり、普段は見上げている先生の端正な顔を見下ろす位置となった。上から見下ろすと、二重瞼の中の魅力的な黒目がさらに大きく見える。やっぱり先生は目がキラキラしていて綺麗。ちょっと少年みたいで、いつも何かに夢中になっている感じがする。それに鼻筋の通った麗しい顔立ちで、私が先生だったら鏡を見る度にドキドキして身が持たない。

 いや、今もドキドキし過ぎて身が持たない。

 それにしても、コーヒーを届けに来ただけだったのに、こんな事に巻き込まれるとは。

 先生にモデルを頼むと言われて、言われるまま体を動かしていたら、いつの間にか今の状況に陥った。

「なんだ?」

 先生の顔を観察していたら、上目遣いで先生に見られた。
 ドキッ。上目遣いの女の子が可愛いとは聞いた事があるけど、上目遣いの大人男性も甘えた感じに見えて可愛いかも。

「な、何でもありません」
「これはあくまでも、アシスタントの仕事だからな」
「は、はい」
「じっとしてろよ」
 先生の腕が私の背中に回った。ふわっと抱きしめられた瞬間、Tシャツ越しの硬い胸と甘い先生の匂いを感じる。

 また心臓が敏感に反応する。先生に聞こえそうな程、鼓動が大きな音を立てている。こんなにドキドキする事をして、本当に仕事なの?

「あ、あの先生、これは一体、な、なんですか?」
「キスシーンだよ」
「き、きすしーん?」
 言葉を聞いただけで頬に熱が集まる。
 ああ、もう、どんな顔をすればいいの。
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