先生と私の三ヶ月
「確かに恵理さんと出会わなかったら、今も純ちゃんと結婚生活を続けていたかもしれない。出張だと嘘をついて、私の誕生日に不倫相手に会いにいくような人と夫婦をやっていたんだと思ったらゾッとします。私、恵理さんから話を聞くまで、純ちゃんに贈ってもらった薔薇の花束に無邪気に喜んでいたんですよ。誕生日にいてくれなくても、それだけで幸せだって思ったりして。なんかあまりにも情けないですよね」

 大きなため息が出た。
 こんなに自分が情けないと思った事はない。

「二度目の流産をして、一人、病院で泣いていた時も純ちゃんは恵理さんといて。私、子どもが産めなくなってから純ちゃんに捨てられるんじゃないかとびくびくしていたんです。だから、お料理も、お掃除も頑張って。純ちゃんが居心地がいいって思える空間を一生懸命作って。純ちゃんのお母さんとも仲良くして。本当バカでした。あんな人に必死にしがみついていて。あの人が私と結婚生活を続けていたのは私の事が好きでも何でもなく、ただ単に都合が良かったからで、私を便利な道具のようにしか思っていなかったんです。そんな人と5年も夫婦をやっていたなんて、つくづく私って、人を見る目がないですよね」

 あははと笑うと先生が肩を抱いてくれた。
 先生の温もりと甘い匂いを感じて、また涙腺が緩んだ。涙を我慢していると、先生に「今夜は泣いていいぞ」と言われた。

 本当に先生は泣かせる事ばかり言う。
 そんな優しい事を言われたら泣いてしまう。

 眼鏡を外して、先生の肩に顔を埋めた。
 先生が労わるように頭を撫でてくれる。

 隣にいてくれるのが先生で良かった。
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