先生と私の三ヶ月
 何か私に見られたくない物が家にあるかと思ったけど何もなかった。取り越し苦労だったのかもしれない。

 先生の身の回りの物を持って黒田さんと一緒に病院に戻った。
 病室に行くと先生は眠っていた。
 黒田さんは私はこれで失礼しますと言って、先生のノートパソコンを持って帰ってしまった。

 ベッドの側に腰を下ろして先生の寝顔を見下ろした。
 病院に運ばれた時よりも顔色がよくなっている。

 本当に良かった。先生が死んでしまったらどうしようと、倒れている所を見た時は不安になった。
 もしも、先生が死んでしまったら私は生きていけない。それぐらい先生が大事だ。鎌倉で抱かれてからより一層強く先生を思うようになった。この先もずっと、ずっと先生といたい。そう思ったら、自然と涙が浮かんだ。

「泣いているのか?」
 鼻をすすっていると、静かな声がした。

「そんなに心配するな。大丈夫だから」
 体温の高い手が私の手を握ってくれた。

「すみません。何か気が抜けてしまって」
「ガリ子。いや、今日子」
 先生が改まったような表情を浮かべた。

「明日の手術が終わったら話したい事がある」
「話したい事?」
「ああ、実はずっと話そうと思っていたんだが、お前に嫌われるのが怖くて話せなかった。だが、こうなってみて、ちゃんと今日子には言わなければいけないと思ったよ」
「何を聞いても私は先生を嫌いになりませんよ。余計な心配はしないで下さい」
「今日子……」
 珍しく先生の目が涙ぐんだ。
「どうしたんですか、先生。明日の手術が怖いんですか?」
 ティッシュで先生の涙を拭くと、先生が「そうかもしれない」と言って緩く笑った。

 思えばこの時が先生と穏やかに話せた最後だった。
< 268 / 304 >

この作品をシェア

pagetop