先生と私の三ヶ月
 思わず眉を寄せて上原さんを見ると、「もしかして、葉月さん、まだご存じないのですか?」と言われた。

「何の事です?」
「先生の新作の小説の事です。完成されたのは知っていますか?」
「いえ。先生は小説の事は私に話さないので」
 余計な事を聞いて先生にプレッシャーをかけたくなかったから、あえて聞かなかったけど、完成していたんだ。良かった。先生、これでスランプから抜け出せたんだ。

「葉月さんは先生の小説の内容についても全くご存じないのですか?」
「はい」
 上原さんが小さく息をつき、心配そうに栗色の瞳を向けた。
「お伝えしていなかったんですね。今回の小説は葉月さんととても関わりのあるものだって」

 えっ?

 私と関わりのあるもの?

 どういう事?

「まずはこちらをご覧になって下さい」
 上原さんが集学館のロゴが入った分厚い封筒をテーブルの上に置き、そこからA4サイズの書類を出した。

「これは黒田さんが作った。今回の企画書になります」
 差し出された書類には『恋愛小説企画書』とタイトルが出ていた。

「これを読んで頂ければ私の言いたい事がわかると思います」

 表紙をめくって中身に目を通した。

 ■望月かおる新作小説企画書
 ・今回の恋愛小説は選定されたヒロインと望月先生が実際に恋愛をし、そこから生まれる感情を小説にする。

 ・恋愛の進行は望月先生のプロットに沿って進める。

 ※ヒロインには本物の恋をしてもらうので、小説の事は完成するまで秘密とする。

・ヒロインの条件
年齢18歳~29歳。
身長167㎝ 体重47kg
ピアノが弾ける事。

 これって、先生のアシスタント募集の求人広告に出ていた条件と同じ。
 どういう事? アシスタント募集の広告はヒロイン募集の広告だったって事?
< 271 / 304 >

この作品をシェア

pagetop