先生と私の三ヶ月
 先生に捨てられるなんて嫌だ。
 先生が他の人を好きになるのも嫌だ。

 まだ自分から離れた方がましなんだろうか。
 でも、先生から離れたくない。

「葉月さん、聞いていますか?」

 黙ったままでいると、心配するような声がした。
 返事をしたいけど、涙が溢れて声にならない。

「葉月さん、大丈夫ですか?」
「す、みません」
 なんとか声にした。

「私、どうしたらいいかわからなくて」
 先生のそばにいるのも辛い。だけど、先生から離れるのも辛い。
 どっちを選んでも辛い。

「こういう時は逃げた方がいいと思います」
「逃げる?」
「先生から逃げて下さい。じゃないと葉月さんが潰れます」
 涙交じりの声が聞えて、上原さんも泣いているのがわかった。

 泣くほど、この子は私の心配をしてくれているんだ。上原さんもアシスタントをやっていたから、もしかしたら私と自分を重ねて心配してくれているのかもしれない。そんな上原さんが逃げた方がいいと言うのだから、この状況はそれが正解なんだろうか。

「上原さん、わかりました。9月30日で先生の所を最後にします」
「それがいいと思います」
「ですが、先生の体調が心配なのですぐに私の後任を探して欲しいのですが」
「そちらは心配いりません。次の先生のアシスタント候補は沢山おりますから」

 そっか。アシスタント候補は沢山いるのか。私は先生にとって替えがきく存在だったんだ。
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