例えば今日、世界から春が消えても。

愛しい君と春

「…え、?」


一泊置いて素っ頓狂な声を上げたのは、他でもない大和だった。


「…ごめん、白血病?サクちゃん今、白血病って言った?」


その隣のエマは想定外の病名が理解出来ないのか、何度も小声でその言葉を反芻し始める。


「うん、白血病。血液の病気」


そんな彼女を見たさくらは笑顔を浮かべ、初めて僕にその名を告げた時とは正反対の淡々とした声で、あまりにも簡潔過ぎる説明をした。


「それ…治るやつだよな?」


一瞬にして食欲が無くなったのか、チーズケーキを半分残してテーブルの奥に押しやったエマを横目で見た大和が、今までとは打って変わった真面目な目つきで尋ねる。


「あー、うーん…」


短い髪を耳の横に掛けた彼女は、言いにくそうにちらりとこちらを見てきた。


その目は、はっきりと語っている。



もう、再発してしまった自分の病気は治る見込みが無いのだと。



それを悟ってしまった僕の視界が、瞬く間にゆらゆらと揺れ始める。


「さくら……」


掠れて消え入りそうな僕の声は、彼女に聞こえただろうか。


「んーとね、入院中はあんまり説明されなかったんだけどね、」


さくらは、普段の笑顔すら作る事を忘れてしまったようだった。


今はただ一心不乱に、自分の運命を2人に言っていいものか、それとも隠し通すべきか、それだけを考え続けている。
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