例えば今日、世界から春が消えても。
「エマと大和も呼んで、盛大に祝うから。…最期まで、皆一緒だよ」


僕は、なんて残酷な台詞を口にしているのだろう。


瞬きで頷きを表現してくれるさくらの瞼が、段々と重そうに開かなくなっていく。


「だから…安心して、おやすみ」


それはまるで、幼い子供を寝かせるかのように。


大丈夫だから、と笑いかけた僕の表情など、瞠目した彼女には見えていないはずなのに。


濡れたままの彼女の目尻に、薄く笑い皺が寄せられて。



そのまま、少し乱れていた呼吸が一定のリズムを刻み始める。




「っ……!」



彼女が夢の世界に足を踏み入れたのを確認した僕は、堪え切れずに両手で顔を覆った。



分かっていても、あまりにも悲しすぎる。


神様は、人に乗り越えられる試練しか与えないのではなかったか。



それから暫く、僕は病室から動けなくて。





さくらが余命2週間だと診断を受けたのは、彼女の誕生日を丁度2週間後に控えた日の事だった。


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