あなたの妻になりたい
2.静かな時間
 ランバルトと二人きりの夕食の時間は、いつも静かだ。マイリスが幾言か言葉をかけても、彼から返ってくる言葉は「ああ」か「そうか」のどちらかだけ。
 そしてこれから、夕食後の『二人の時間』を迎える。といっても、何をするわけではない。ただ、マイリスがランバルトの部屋を訪れ、時間を共に過ごすだけ。マイリスが何かを話しかけても、彼から返ってくる言葉は、やはり「ああ」か「そうか」のどちらかだけ。

(ランバルト様は、私のことをどう思っているのかしら)

 仮婚をしたとき、マイリスが十八歳でランバルトが三十歳であった。十二歳の年の差であれば、ランバルトから見たら、恐らくマイリスなんて子供のような存在なのだろう。

(だったら、最初から私を仮妻として望まなければいいのに――)

 マイリスは手の中に握りしめた小さな缶を見つめていた。これは、マイリスがランバルトの元に嫁ぐときに母親が手渡してくれたもの。

 ――これは、トロナの王族の代々伝わるお茶よ。不思議な力を持っているのよ。
 ――なかなか思っていることを口にするというのは難しいことなのよね。
 ――だからね、どうしても不安なときはこのお茶を飲みなさい。なかなか口にできないことも、このお茶の力を借りれば口を告いでくるようになるから。
 ――ま、迷信だけどね。それでもお茶のせいだと思っていれば、思っていることも言いやすいのかもしれないわね。

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