あなたの妻になりたい
 いや、そもそもこのお茶にそんな力はないはず。全ては迷信。都合のいい解釈。それでも、嬉しいという気持ちは変わらない。

「はい。トロナは島国ですから、国中、潮の香りがしております。このお茶は、お茶といっても海藻から作られているお茶なのです」

「そうか」

 そうか、とランバルトが口にすればこの話題は終了。これ以上の会話はない。それでも彼がこのお茶に興味を持って尋ねてくれたことは、今までにない大進歩だろう。きっと、それがこのお茶の力なのだ。

 マイリスもゆっくりとお茶の入ったカップを口元に運んだ。懐かしいトロナの味がした。これのどこが不思議な力を持つお茶なのだろうか。いつもトロナで飲んでいた海藻茶の味しかしない。
 ただただ時間は静かに流れていく。この部屋には、ランバルトが本をめくる音しかしない。その間、マイリスはただ彼の隣に座っているだけ。そしてたまにカップに手を伸ばして、懐かしい味で身体を満たすだけ。
 最後の一口を飲み終えた。もう、マイリスがこの部屋にいる口実がなくなってしまった。

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