復讐日記【自滅編】
毒を吐く人
 顧客の家を訪問して化粧品のセールスをしているAは、地元で生まれ育ったせいもあって知らない人は居ない。どこへ行っても必ず知り合いに会う。毎日買い物に行くスーパー、たまに骨休めに行くスーパー銭湯、週イチで通う美容院、馴染みのブティック、そして茶飲み友達はそこいら中に。
 茶飲み友達? Aが誘うと断りはしないが、Aを誘うことはない茶飲み友達ばかりだ。だから友達ではない。幼少からの幼馴染、同級生が数多く居るはずなのに、Aには声が掛からない。それは何を意味するか。
 A本人は、自分は地元で有名であると豪語しているが、或る意味有名なのであって、誰もAを歓迎してはいないし好きでもないのだ。寧ろ嫌われている。
 Aの強引なセールスで高い化粧品を無理矢理買わされた者たちが、Aと大喧嘩をして縁を切ることが頻繁にある。
「あの人とは喧嘩別れでもしない限り縁を切れない」
 と泣き寝入りする者も居る。悪病神と言われている。
 別の化粧品に乗り換えた顧客に対しては、
「あんたみたいな世間知らずは、そのうち騙されて地獄を見るからね」
 と吐き捨てるなど、暴言が過ぎる。
 訪問先では愚痴、不平不満、悪口のオンパレードで耳を塞ぎたくなるような話に花を咲かせていた。
 このままで済むはずがない、Aにはバチが当たって欲しい、という思いを誰もが心に抱き始めた頃、Aは胃癌がみつかり大手術をした。1年間休業した後復帰したが、元々女相撲取り並みの体格をしていたAが半分の大きさになったものだから、周囲は驚愕した。回復して良かったね、と口では言ったものの、望まれない復帰であることは明らかだ。
「胃癌になると痩せるわよー、あんたも太ってるんだから胃癌になったら良いわよ」
 と言われた顧客が居た。健康に生きていられればこその人生。言うに事欠いて「胃癌になれ」とは…。
 こいつはもう終わりだな。自分の中に巣くって溜まりに溜まった毒でそのうち死ぬだろう。

 Aは1年後癌が体中に転移、手の施しようが無く死んだ。
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