キズカナイ 〜Can't Take My Eyes Off You〜
妊娠
俺は、高校3年の明石圭。都内にある名門私立高校『みどりヶ丘学園高等学校』に通っている。名門高だから学力優秀で、ある一定基準以上の偏差値がなければ入学出来ないと思われがちだが、全てがそういう訳ではないようだ。学力が満たない場合でも入学出来る奴もいるみたいだ。あくまで噂だけど、金と権力が大きく絡んでいるようだ。ある程度の金を積みさえすれば、学力が足りてなくても入学は可能だということらしい。でも、どうしてそこまでして生徒の親がこの高校に入学させたがるかというと、この高校の出身というだけで殆んどの企業が顔パスで受け入れてくれるからだ。進学においても、約90%の進学率という驚異の数字を毎年叩き出しているのが現状だ。それが全て実力によるものなのか、それとも学校の斡旋なのか、金の力が絡んでいるのかどうかは分からないけど、それは紛れもない事実だった。

俺の家は父親が検察官で母親が弁護士という仕事をしているので人並み以上に裕福な生活を送らせてもらっていた。この人生の勝ち組のような2人の間に生まれた俺は、もちろん将来は法律に携わる仕事につけるような英才教育を物心がついた時から叩き込まれていた。だから勘違いされると困るので先に言っておくけど、俺はこの学校には金の力ではなく実力で入学した。それに俺は、受験を主席で合格して以降、今日まで試験の成績はずっと学年トップを守り続けている。

「圭ちゃん、一緒に帰ろう」

「いいけど、大丈夫なのか?」

「何が?」

「またテストで赤点取ったんだろ?」

「てへっ」

「〝てへっ〟じゃないだろ! 今度赤点取ったら留年になるって言われてたんだろ?」

「大丈夫だって。先生たちは留年とか言ってるけど、留年した人なんていないじゃん。きっと脅してるだけなんだよ」

「お前は本当にヤバイと思うぞ」

「そんなことないって――きっと大丈夫だよ。0点はなかったんだよ。英語なんて18点だったんだから」

0点は1科目もなかったけど、最高得点の英語以外は全て一桁台だった。平均得点は12点。

「家帰ったら少しは勉強しろよ」

「やだね! つまんないもん!」

「つまんないじゃないだろ! どうせ家に帰ったって、大した用はないんだろ?」

「あるよ! 圭ちゃんだからって、バカにするならマジで怒るから!」

「なら何するんだよ?」

「youtube見てゲームやって寝る」

「頼むから勉強してくれ!」

「やだよ〜だ!」

「留年してもいいのか?」

「する訳ないけど、もししちゃった時はもう1年間、2年をやるから別にいいよ」

「お前ってホントにバカだな」

俺と放課後の教室で話している、このしょうもない女子生徒は五十嵐マナ。俺と同じクラスメイトだ。学力はクラスでもビリ――学年でも断トツビリの落ちこぼれ生徒だ。こんなしょうもないマナだけど、親が都議会議員のお偉いさんなので、お金持ちのお嬢様ということになる。そんなマナが名門高である『みどりヶ丘学園高等学校』に入学出来たのは親の政治の力と金の力を使ったに他ならなかった。実力では地球が引っくり返っても無理だろう。それに入学してからは、偏差値30以下のマナが偏差値60以上もあるこの高校で授業について行ける訳はなく、赤点を取るのもやむを得なかった。だから多少は同情する部分もあった。とはいっても同情するのはここまでで、マナの堕落した学校生活と家庭での怠けまくった生活態度を見ている限り、赤点も留年も自業自得の部分の方が大きかった。学校の授業についていけないなら、少しは努力して勉強をすればいいし、塾に通うという方法もあったと思うけど、マナは何1つしないで自由気ままな生活を送り続けていた。
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