恋と、餃子と、年下男子

フラれる

「お前さ、マジで見損なったわ。パワハラとか最低じゃね?」
 
 目の前に対峙している男が私を責め立てる。通い慣れた会社近くのカフェ。呼び出された私は、黙って彼の正面に座っている。
 流行りのツーブロックというヘアスタイルは、濃いめの顔立ちをした彼に良く似合っている。ワイルドでセクシーだと思っていた。私のことを何度も愛おしそうに見つめた目で、何度も私に甘い言葉を囁いたその口で、彼は今、私を罵倒している。
 
菜々(なな)ちゃんが何したって言うんだよ? 一生懸命頑張ってんじゃん」
「一生懸命頑張ってたとしてもミスはミスでしょ? あの子、もう三年目よ? いつまでも新入社員気分でいられたら困るの」
「だからってパワハラすることねぇだろ?」
「注意しただけでパワハラ扱いされたらたまったもんじゃないわよ!」
 男はげんなりした顔を見せた。
「……お前さあ、いつからそんなに可愛げがなくなったわけ? 昔はもっと優しかっただろ?」
 あんたこそ、いつから私じゃなくて「菜々ちゃん」を見てるのよ? そう思ったものの、口には出さないでおいた。
 もう、大体察しがつく。彼が何を言いたいのか。言えばいいじゃない、さっさと。ほらほら。

「あーもう無理。マジ無いわ。別れよう、俺ら」
 
 彼は用意していたかのようにその台詞を吐くと、小銭をテーブルの上に乱暴に置き、カフェを後にした。他のテーブルからの視線が、取り残された私にだけ刺さった。
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