恋と、餃子と、年下男子

定例会

 定例会は朝九時から、社内ホールで行われる。表彰以外にも、新商品の発表や、社内向けにPRしたいことのある部署は、事前に総務に内容を提出しておく。社長賞の表彰は毎回あるわけではなく、むしろ無いことの方が多い。だから余計に、注目されやすいのだ。
 
「モエモエ先輩っ!」

 商品開発部の人達がいる一画から、ヤッシーが手招きして私を呼んだ。私が通る度、「ほら、あの人……」「ああ例のパワハラの?」「いや、若い男連れ込んだとかいう……」「ヤベー女!」というヒソヒソ声が聞こえてくる。全部真実なので、いちいち反論する理由もないんだけど。

「先輩、気にしなくていいから! あたしら、別に賞が欲しくてやってるわけじゃない。あの冷凍餃子が、たくさんの人に買ってもらえたらいいなって思って頑張っただけだから。ねっ、久保っち?」
「……まあ。表彰とか、目立つの苦手だし……。逆に助かったっていうか」
 久保君はポリポリと頭を掻きながら言う。
 たとえ本心ではないとしても、二人の優しさが嬉しかった。
「モエモエさん」
 ナベさんが遅れてやって来た。
「総務には、私からきちんと説明しました。あなたがうちのチームに来てからどれだけ活躍してくれたか、どれだけあなたが我々に必要か」
「ナベさん……」
「私もヤッシーと久保君と同じ気持ちです。賞なんて頂けなくても構いません。それよりも、あなたに辞めてほしくないんです」
 泣きそうだ。どうして三人とも、そんなに優しくしてくれるんだろう? 私は、ここにいても許してもらえるのかな……?
 
 
「——それでは、上半期の定例会を始めます。まずは各部の報告から」
 
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