恋と、餃子と、年下男子

異動先

 短い昼休みを終え、つい癖で営業部へ戻ろうとしてしまった。習慣とは恐ろしい。私はもう営業部の人間じゃないんだから。
 私が新しく配属された商品開発部は、営業部があるのとは別の棟にある。白衣を身にまとった人たちがたくさんいて、場違い感が半端じゃない。もれなく、私にも白衣が支給された。
 
 私の勤めている『株式会社アクロス・テーブル』は、主に家庭で使われる食品を扱っている会社だ。主力商品はカレーやシチューのルウで、その他にも調味料からレトルト食品まで、ほとんど何でも扱っている。営業部では、その商品をスーパーや百貨店なんかに置く仕事や、他の企業とのコラボ商品を企画したりなんかもしていた。
 商品開発部だなんて、理系の研究職の人ばかりかと思いきや、意外にもそうではなかった。「形にとらわれず新しい発想が生まれるように」と、門外漢を積極的に抜擢しているらしい。そう言えば聞こえは良いけど、私の場合は要するに左遷だ。
 
「あ、モエモエ先輩おかえりー」
 明るく染め上げた髪が目立つギャル風の子に声をかけられる。異動初日で、早速あだ名を付けられた。モエモエって……。ちょっと恥ずかしいんだけど……。
薬師寺(やくしじ)さん、だっけ……。ただいま戻りました」
「やだー、ヤッシーでいいってば! モエモエ先輩固ぁい!」
 きゃははっと笑いながら、私の肩をバシバシと叩く。営業部の後輩だった菜々の数倍上をいく強烈キャラだ。
「本多さん、早速ミーティングするから集まってくれる?」
 そう声をかけてきたのは、白髪混じりの頭をした温和そうな男性・渡辺さんだ。そしてもう一人、声の小さい高身長男子・久保君がいる。長すぎる前髪が邪魔をして、あまりよく顔がわからない。
 私を含めたこの四人が、商品開発部冷凍餃子担当らしい。餃子は我が社の冷凍食品部門の中でも、苦戦している商品だ。
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