【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

20.計算づくしの恋心

「コーエン!コーエンったら!どこ行くの!?」


 クララがどんなに叫んでも、コーエンはこちらを振り返ることなく、ずんずん先へと進んでいく。逃げ出そうにも、掴まれた手が燃えるように熱くて、クララは大人しく彼の後を付いていくことしかできない。

 やがて連れ込まれたのは、クララも未だ足を踏み入れたことのない、フリードの宮殿の一番奥にある部屋。

 広さといい、豪奢さといい、他とは比べ物にならないその部屋は、誰かの私室のようだった。


「ここ、どなたのお部屋なの?こんなところに勝手に入って大丈夫……」

「そんなこと、今はどうだって良い!」


 そう口にしながら、コーエンがクララににじり寄る。背中を壁を押し当てられ、コーエンの両腕が檻の如くクララを囲う。逃げ場なんて何処にもない。

 心臓の音がバクバクと騒いでうるさい。まるで己の胸に耳を押し付けているかのような奇妙な感覚だ。


(何を言われるんだろう)


 怖さと、戸惑いと、ほんの少しの期待。

 観念してコーエンの顔を見上げた瞬間、クララは身体中の血液が沸騰するかと思った。

 苦し気に寄せられた眉、濡れた瞳、高揚した頬に、紅く色づいた唇。

 クララに恋愛経験なんてまるでない。だからこれは、本能によるものなのだろうか――――クララの身体はコーエンの中に宿る欲を感じ取っていた。


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