【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

2.向けられた敵意

(外から見てるだけじゃ分からなかったけど、やっぱりお城の中って広いのね)


 美しく、無駄に広い回廊を歩きながら、クララは小さく息を呑む。まるで物語に出てきそうな、趣のある建物や庭園。本当はもっとゆっくりと見て周りたい。
 けれど、あまり視線を彷徨わせるのは行儀の良いこととは言えないだろう。折悪しく隣でコーエンが馬鹿にしたように笑ったので、クララはキリリと気を引き締めた。


「ここが侍女の控室。茶とか、食事とか、王子の身の回りのこととか――――なんでもここに頼めばいいから」


 ふあぁと気の抜けた欠伸をしながら、コーエンはそう言う。


「それ、わたしの仕事じゃないんですか?」


 クララが想像していた内侍の仕事は、今まさにコーエンが口にしたようなものだった。だから、内侍としての仕事が決まって以降、クララは屋敷の侍女たちが仕事をしている様子を観察したり、手伝ってみたりしていたのだが。


「あんたの仕事はもっと別」


 コーエンは小さく笑いながら、再び歩き始めた。

 クララはこれまで、ありとあらゆる書物を読んで来たのだが、こと城の中、その仕事内容が書かれたものは、殆ど存在していない。
 おそらくは在職中、退職後であっても、城での出来事について口外を禁じられているのがその理由だろう。けれど、分からないことがある、ということはそれだけで気持ちが悪いもので。


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