聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい

真実の話のあとに

 ということは、マリオは皇太子殿下が身内だと、具体的には双子だと気がついていたのかしら。

 彼だけは、自分の髪の色が黒色だとわかっているのだから。

 だけど、皇太子殿下とマリオは、ほんとうにヴェッキオ皇国の皇帝の子なのかしら。

 だって、アヤの義母、つまり偽侯爵をこんなふうにした張本人の髪も瞳も黒色ではなかったように思うのだけれど。義母も義姉も胸くそ悪すぎてほとんど関心を持たなかったし、じっと見ることすらなかったけど、少なくとも髪はくすんだブロンドだった気がする。

「皇帝陛下は、金髪碧眼だ。双子は、母親に似たわけだ。売女にな」

 偽侯爵は、わたしがかんがえていることをわかっているようである。

 なるほど。彼女もまた髪を黒く染めていたわけね。

 瞳の色は、気がつかなかった。目を合わせたことがなかったんですものね。

 ということは、皇太子殿下とマリオ、それから義姉は兄妹というわけね。

 たしか義姉の髪はくすんだブロンドだった気がする。だけど、クレメンティ公爵も髪はブロンドである。義姉は染めているわけではなく、ほんとうにブロンドなのかもしれない。

 よくもまぁ、あの義母が隣国に乗り込まなかったことよね。

 自分の子が皇太子になっているなんて知ったら、乗り込んでいって「わたしの子よ」って言いそうなものだけど。

 よほど脅されているか、何かかもしれないわね。

 いずれにせよ、皇太子殿下とマリオのほんとうの父親がだれかはわからないのかもしれない。

「殿下……」

 偽侯爵がこれ以上語ることはなさそうなタイミングで、ヴァスコが皇太子殿下を気遣い、声をかけた。

 わたしも同様である。

 檻に背をあずけ、呆然としているマリオに近づいて彼の左腕にそっと触れた。

 彼はハッとしてわたしと視線を合わせてきた。だけど、瞳はうつろである。

 わたしを見ているわけではない。

 彼はいま、その瞳に何を映しているのだろうか。何を見ているのか?あるいは、何を映したいのだろうか。

 彼と皇太子殿下が受けている衝撃は、わたしの想像をうわまわっているに違いない。

 慰めればいいのか、同情の言葉を投げかければいいのか、共感すればいいのか、正直なところわからない。

「マリオ、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫」

 ワイルドな美形に硬い笑みを浮かべ、彼の左腕をさすっているわたしの手を右手で触れてきた。

 無意識の内に行っている。

 彼と皇太子殿下には、いまは頭と心に休息を与えるべきじゃないかしら。

 あまりにも衝撃的な情報が多すぎて、二人とも対処どころか何一つ整理出来ていないはずだから。

 偽侯爵の話はもう充分。

 こんなところから、さっさと連れだすべきね。

「ヴァスコ。二人をここから連れて行きましょう。とりあえず、休んでもらった方がいいわ」
「ああ、アヤ。きみの言う通りだ」

 ヴァスコと二人で皇太子殿下とマリオを牢の外に連れ出し、牢に鍵をかけた。それから、二人を地下牢から連れだした。

 偽侯爵のことは、とりあえずは放っておきましょう。彼よりも、皇太子殿下とマリオの方が大切だから。

 だけど、偽侯爵のことはどうにかしなければならないことはたしかよね。

 生かすのか殺すのか、王都に密告してそちらの方で手を下してもらうのか……。

 皇太子殿下とマリオは、とりあえずそれぞれの部屋へ戻ってもらった。

 二人は死にかけた。だから、もうひと眠りしてもらい、それからあらためて偽侯爵からきいた話を整理しよう。
 いま整理しようとしても、感情が先に立ってしまって出来ないかもしれない。

 二人とも素直に従ってくれた。

 ヴァスコは王太子殿下を、わたしがマリオを、それぞれの部屋に連れて行って寝台に横になるのを見届けてから、部屋を出てケガ人の様子を見に行った。

 ケガ人二人は、ぐっすり眠っている。どちらも命に別状はない。

 数日休めば動けるようになる。

 そして、ヴァスコと二人で厨房にいる。

 とりあえず葡萄酒でも飲もう、ということになったから。ついでに、腹ごしらえもしよう。

 最後に食事をしたのは、もうずいぶんと昔のような気がする。 

 食材は充分ある。手早く作れるものということで、サンドイッチを作った。

 ハムと野菜、ジャムをはさんだもの。

 ヴァスコと二人、貪るようにして食べた。それから、葡萄酒を飲んだ。カウンターにもたれ、立ったまま無言で、である。

 彼の食べっぷりと飲みっぷりはなかなかのものである。
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